「やがて開く華」の蕾

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――鮮やかな初夏の緑色の芝生。  その上に点在する、濃い緑色と淡い水色、二つのユニフォーム。  ピーっと甲高い笛の音。  競技場に響き渡ると、それを合図に試合が始まる。  中央のボールが蹴られ、ボードゲームの小さな駒のような選手たちが動き始める。  競技場のスタンド席の後ろの方からは、グラウンド全体が見渡せる。  あたしは地面を転がったり宙を舞ったりするボールを、ぼんやりと目で追っていた。 「あ、充紀いたよ?」  その名前に耳がぴくりと反応した。  あたしは少し前の座席に腰掛けている、男女二人組に目を向けた。 「どこどこ?」 「ほら、左の方の奥」  二人は少し高い所にあるスタンドから首を伸ばしてピッチを見回していた。  あたしも会話に合わせて左の奥の方に目線を向ける。  ……いた。
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