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ふぉろ――――。
ふぉろ――――。
未練を残した亡者と言うのは、化けて出るものなのでしょうかと――おりんは言った。
ふぉろぉ――――。
ふぉろぉ――――。
ミミズクだろうか。
フクロウだろうか。
うっそうと深い森に儚げな猛禽の声が響く。
それがたまらなく――怖い。
「もし…もしたとえ数百年前の武者などが、怨霊と化けて出てくるのだとしたら、つい最近死んだ者など当然の如く化けて出るんでしょうか…?」
おりんの声が、猛禽の声に霞む。
「華の残り香が、新しいほど濃いのと同じように…この世の未練と言うものも――」
新しいほど強いのではありませぬかと、おりんは言う。
「…ど、どちらでも、違いがあるのかの?」
左眼が疼く。無意識に痒く。
「ど、どちらでも…人は死ねば終わりじゃ。あの世もこの世も無い」
少なくとも、以蔵はあの世などと言う場所を見たことも、ましてや行ったことも無い。
未練を持って死んだ人間が化けて出ると言うのならば、なにより以蔵こそが真っ先にその姿を見ていなければ、道理が通らない。
なぜならば以蔵には、誰よりも多くの輩を涅槃に送った自負がある。その中で未練を残さず逝った輩なぞ、以蔵はひとりも知らない。
だから以蔵にとっては、亡者など別段問題ではない。
そんな事よりも――フクロウが――――いやミミズクか――――。
「そのような事は…ありませぬか――――」
そうです…よねと、おりんは悲しそうに以蔵を見つめた。
「い、いや…わしはフクロウかどうかが、き、気になって…」
以蔵は卑屈な笑いを浮かべ誤魔化した。
兎にも角にも――恐くて、怖くて・・・こわい。
ただでさえ必死に堪えているのに、そのような話を真聞きたくはなかった。
幽霊なぞごめんだ。
真に怖ろしきは生きて動くもの。何をしでかすか分からぬ生者。
生きている者の相手だけで――手一杯なのだ。
ぱちりと、薪が爆ぜた。
紅い火の粉が、光の粒子となって宙に踊る。
それが以蔵には痛いほど眼に沁みる。
二人の前で赤々と火が燃えていた。
焚火には古びた鉄鍋が乗せられており、そこには湯が沸いている。
その前には、串に刺した魚が既に焼きすぎて燻され、夜気に何とも香ばしい匂いを漂わせていた。
ふたりは、身を寄せ合うようにして揺れる炎を見つめている。
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