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眼の痛みはいよいよ酷くなり、頭までもが割れそうに痛い。
「それにしても、ええ女じゃの――どこで知り合うた?」
支倉が、おりんを舐めまわすように見つめる。
「――さ、ささ、さ三条大橋の下じゃ!い、今は、そそ、そんな事…関係ないじゃろ!」
「なんじゃ、夜鷹か。品の有りそうな女じゃき、どこぞの妻女かと思ったが。まぁええ、楽しむだけ楽しんだら――――」
仲良う重ねて置いちゃると、言うや、やにわに白刃を抜き放った。
「は、はせ、支倉。…な、なんで、なんでじゃ!」
「言うたろ。おまんに生きていられると困るんじゃ」
瑞山先生がなと、支倉が嗤う。
「し、し…刺客仕事を、わ、わしが話すとでも思うんか」
「それも有るがの、『骸』であるお前の存在自体が禁忌じゃ。存在してはいかんのよ」
こればかりは、絶対にいかんと、支倉が白刃を下段に構える。
「な…なぜじゃ?あ、明日の日ノ本の為の天誅じゃろ!そ、そこまでこの…お、岡田以蔵を愚弄するがか!」
口角に泡を飛ばし、以蔵が吼える。
「分からん奴じゃの。お前は以蔵ではない、『骸』じゃ」
「…なに?」
「しっかりせんか。おまんは一度…死んじょるじゃろが」
「え…」
「さっき自分で言ぅちょったろ。所司代の某っちゅう奴に、おんしは斬られて死んだろ。また忘れたか?よう思い出さんか…相手を斬って、おんしも斬られ、相対討ち死にじゃ」
「――――」
「じゃがな、瑞山先生は、卑しいおんしでも、その剣の腕前だけは高う評価しちょった。妬ましいくらいじゃ」
見事なまでに、支倉の嗤いは他者を嘲る。
「長州や薩摩らぁと対等に渡り合うに、天誅の名の下の人柱は多いに越したことはない。どれだけ血を流したかが――」
尊皇の誉れじゃと、嗤った。
「そん為に、稀代の人斬り岡田以蔵を死なせてしまうのはあまりにも惜しいと、瑞山先生が、なんちゃら居士とか言う胡散臭い呪師を呼び寄せてな…」
死んだ――。
死んだ――。
「以蔵、おんしの目玉をくり抜き――――」
覚えている――意識の薄らぐ自分に向かって伸びる、節くれだつ禍々しい指先を・・・
熱い!
熱い痛みを・・・以蔵は左眼を押さえた。
一層激しく、尋常ではない痛みが鼓動を刻み脳髄に突き刺さる。
「互いに殺し殺される――輪廻因果が廻れば――――」
痛い!
熱い!
痛い!
「夫婦の如く仲睦まじく――」
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