二章 あいたかったの。

10/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「まあ、そう言わずに。ではかさね殿。此方へおいでなさい」 「あ、あの…逢鬼さんは」 「俺は此処には住んでいない」 その言葉を聞いた途端に、かさねは不安に揺れる目で逢鬼を見た。逢鬼は鬼だ。自分と同じ人間と言う種族ではない。それだけでも、二人を隔てる壁は厚く、高いものであるはずだと言うのに、かさねにとっては同じ人間である翡翠よりも、逢鬼のほうが近しい存在になったのだ。 逢鬼はさよならの一言もなく、二人に背を向けた。そのまま森へ帰ると言うのか。しかし翡翠はそれに対して何の言葉もかけない。おそらく、なにも告げずに去るのはいつものことなのだろう。しかし、遠ざかっていく背中にかさねの胸中は不安が渦巻いていた。そして、行ってほしくないという気持ち。このまま、この村に慣れるまで隣にいてほしかった。しかし、それはかさねの我儘だ。彼には彼の生き方がある。彼は人間ではないのだから。 逢鬼の姿が見えなくなった頃、翡翠はかさねに声をかけた。優しく肩を抱く。何事かと、かさねは翡翠を見上げる。きょとんとしたかさねに、翡翠は柔らかく笑って安心させようとする。 「ひとまず、私の家にどうぞ。詳しい事情を教えてください」 「はい…」 おどおどとしながら翡翠の言葉に答えると、翡翠はくすりと笑った。 「なに、取って食うわけではありません。安心なさい」 翡翠の穏やかな笑顔に、かさねは安堵した。 「では、まず貴女のことについて教えてください」 翡翠の
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!