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「ん……」
久世ノ宮かさねは、ようやく目を覚ました。
しかし、目を覚まして突然飛び込んできた景色に驚く。
見渡す限り、自然物。生命力を感じさせる草花に、どっしりと構える木々。清涼感のある川のせせらぎ。
自分は先程まで学校から家への帰り道を辿っており、ビルやコンクリートや電柱などの人工物に囲まれていたはずだったのだが。
見渡す限り、見たことのない景色に囲まれて、かさねは戸惑っていた。まだ夢の中にいるのだろうか。ならばこの掌に伝わる草の柔らかな感触は一体何なのだろうか。
「おい。呆けているところ悪いが」
ふと、すぐ側から低い声が聞こえてくる。言葉の通り呆けていたかさねは、突然の人の声にびくりと肩を震わせた。そして恐る恐る声の聞こえる方へ顔を向けた。
「っ、ひっ…!」
上擦った悲鳴をあげそうになるも、しかし恐怖で喉で詰まったその悲鳴は、誰にも聞こえなかった。
体を支える手が小刻みに震えて、目の前の異形の人物の姿にかさねの目は見開き、瞬きすら忘れそうだ。
その青年は涼やかな目元をぴくりと引きつらせ、不快感を隠しもしなかった。今にも血が滴りそうな真っ赤な目には呆れに近い感情を宿らせている。
「お、鬼…」
「そうだが。お前は何者だ。この辺りの者ではないな」
かさねの放った鬼という言葉を、青年は何事もなく受け入れる。かさねはぱちぱちと瞬きを繰り返して、暫しその神秘性のある姿に目を奪われる。
白に赤と言われると白蛇を連想して、何やらありがたいもののように思ってしまう。遺伝子疾患で白化した個体をアルビノといい、人間でも起こりうる事象らしい。人の場合はアリビニズムの人という方が好ましいというのを資料で見て、かさねは覚えていた。だから先に訊かれていたことも忘れ、かさねは怯えた様子で訊ねる。
「貴方はアルビニズムの人ですか…?」
「あるび…なんだそれは。そんなことよりお前は何なんだ。何処から来た」
「そ、そうだ私…!」
青年の異様な姿に気を取られてすっかり忘れていたが、少なくとも此処はかさねの知っている場所ではないことだけは確かなのだ。
「あの、私気が付いたら此処に居たんです。すみませんが、此処は何処ですか?」
かさねの言葉に青年は訝しげな視線を送る。
「此処は鬼神の森と呼ばれている。近くに村があるが、そこの娘か?」
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