二章 あいたかったの。

7/10
前へ
/12ページ
次へ
それはまるで捜し人の手掛かりを見つけたような。そんな反応だった。 「本当に御逢神社ですか!?」 逢鬼に掴みかからんばかりの勢いでかさねは訊ねる。いきなり様子を急変させたかさねに戸惑いを隠せないままに、逢鬼はこくりと頷く。 「あ、あのですね。未来の私の居たところの近くに、御逢神社があるんです。それに、この森。きっと御逢の森だ…」 「つまり、この場所はお前が未来で住んでいた場所に近いと言いたいのか」 「はい!」 かさねは嬉しそうな笑顔を浮かべている。未来とのたったひとつの共通点。彼女と未来を繋ぐ唯一のもの。それを発見することが出来て、彼女は心底安心したのだろう。 突然見知らぬ場所に放り込まれたかと思えば、人ならざるものとの邂逅を果たし、時代さえも違うという事実。 どれほど彼女が絶望してたかは計り知れない。彼女がどれほどの孤独に苛まれたのかも想像できない。それでも彼女は涙も見せず、鬼である逢鬼に最初は悲鳴こそあげたものの、こうして普通に会話している。 「…良かったな」 「へ?」 逢鬼のぶっきらぼうながらもかさねの心を汲んだ言葉に、かさねはきょとんとする。およそそんな言葉をかけるような男には見えなかったのだ。それは完全にかさねが勝手にそう思い込んでいただけなのだが。 「ごめんね。逢鬼さんがそんなこと言ってくれるなんて思わなかった」 「………」 逢鬼は後悔した。やはり、らしくないことはするものではないと。こういう反応をされるのは、あまりいい気分ではない。だが。 「ありがとう、逢鬼さん。やっぱり、優しい人なんだ」 はにかむような笑顔と共にそう言われると、たまにはらしくないことを言うのも良いものだと思えるからおかしいものだ。 ほだされている。会って間もない少女に。 それが逢鬼には不思議でならなかった。それに、微かに感じるこの懐かしさ。 どこかで……。 「逢鬼さん?」 かさねの言葉に、思考の海に沈んでいたところから引き上げられる。思わず俯いていた顔をあげると、かさねの目と目が合う。 よく磨かれた黒曜石のような瞳は、曇りがない。その目にみつめられていると、隠し事などないのに、後ろめたい気分になってしまうのは何故だろうか。 「…何でもない」 「そう?」 ふいと視線を逸らし、答える。かさねはそれ以上追求することはしなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加