第20章 信じていたから

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金曜の休憩の時間、室長に声を掛けた。 「室長すみません、今日は半休 いただきます。」 「ああ、明日でしたね。私も参加 させていただきます。」 「折角の休みにすみません。」 「いやいや、上司になって間もないのに光栄ですよ。 あなたとは、なかなかお話しできなかったのですが、  父がよろしくといっていました。  あなたの婚約の話を聞いて残念がっていましたよ。」 「え?お父様ですか?」 「一度ここで、話したのでしょう。  鹿児島支社の、」 「あ、父の知り合いの方ですね。  覚えています。  私の入れたお茶をほめてくださいました。」 「そうです。あなたのことをひどく気に入って、  帰ってからはあなたの話ばかりです。  どうやら、父は私と結婚させたいと思ってたらしいですよ。」 「そんな、  ……一度お話ししただけです。」 「でも、ここで、あなたを見ていて  父がなぜそんなに気に入ったのか分かりましたよ。」 「?」 「私も、素敵な女性だと思います。  もっと早く出会えたらと思いました」 「もう、やめてください」 真っ赤になってしまった私に、    いつも穏やかな室長の顔が、  悪戯っぽくクスクス笑って 「冗談ですよ。」  といった。 瞳の奥の優しい眼差しにドキンとしてしまう。 「失礼します。」  あわてて、ラボを後にした。
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