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怒号が飛び、俺は目をこすりながらあくびをする。
「ところで、君の……双子の妹だっけ。あの子は?」
いつも七海の横で大人しそうにしている女子生徒の姿が見えない。双子で同じ名字が同じクラスにいると、呼び分けがめんどくさいのが難点だ。
「名前、憶えてやってくれよ、せめて。梨由(りゆ)なら、昼休みはいつも図書室に居るぞ」
「どうりで」
姿が見えない筈だ。というか、ろくに話したことも無いんだけど。
「まぁ梨由も、ぼけーっとしててお前の事なんか認識してないかもしれないけどな」
「ちょっと悲しいな、それ」
冗談だよ冗談、と軽く流されるが、可能性は大いにある。
「ところで、なんでお前、いつも甘い匂いすんの? 香水?」
「そんなに洒落たもの、俺がつけると思う?」
「いや」
即答か。そうか。日頃の俺に対する意識がなんとなく伝わった気がする。
ため息をつき、鞄の中を探って、飴の入った袋を取り出す。
「にっき飴だよ。眠気覚ましに授業中はいつも口の中に入れてるんだ」
「にっき?」
「シナモン。まぁ、他のお菓子に使われてるのと違って、匂いがかなり強いから、人によっては吐き気を催すかもね」
「今、食ってる?」
「もちろん。じゃないと眠くて会話なんかできるか」
なるほど、と頷かれる。会話が一区切りついたところで、俺は立ち上がる。
「んじゃ、図書室行ってくる」
「梨由を口説きに?」
「んなわけないでしょ。夜、本でも読もうと思ったんだよ。どうせ眠れないからね」
茶化してくる七海を無視して、教室から出る。飴を口の中で転がして、何を借りるか考えた。
俺は昔から、本は嫌いなほうじゃない。どっちかと言えば好きなほうだと思う。できれば短い話がたくさん入っている短編集がいいかもしれないな、と思いながら図書室のドアを開けた。
人の気配が無い。図書室の中をぐるりと見渡して、文庫コーナー近くの椅子に座っている女子生徒を発見する。それ以外の人はいないみたいだ。じゃあ、この子が梨由か。
声をかけようとして、特に用事がないことに気が付いた。あたりを見渡して、そのへんの本を一冊、適当に抜き取る。
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