3.西空サンセット

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「ごめん、この本なんだけど」  ぽかんとした顔で見上げられ、若干言葉に詰まる。だが、もう後には引けない。俺は大きく息を吸い込んだ。 「……どこにあったかわかる? なおす場所、わかんなくなっちゃってさ」  きょとんとした表情で目をくるくる動かすと、彼女は弾かれたように立ち上がった。 「あ、そこ」  指差されたのは、俺がさっき本を手に取った棚。すごい、ちゃんと場所覚えてるんだな。 「そこの棚の上から三段目。同じ作者の本が並んでるから、そこに」  うなずいて、棚に近寄る。 「あった」  ようやく見つけられてほっとした、という風に声を上げた。にこりと笑う彼女につられ、思わず微笑んで、棚に本を戻す。そして、礼を言うために彼女に近づいた。 「ありがとう」  彼女は恥ずかしそうにもじもじとしていたが、俺はそのまま図書室を出た。  放課後に、もう一度図書室に行ったが、彼女はいなかった。 「本を探してるの?」  図書室の司書をしている先生に話しかけられ、俺は小さくうなずいた。 「短編がいいんですけど、なんかおすすめはありますか」 「そうねぇ……」  先生は少し考え込んだ後、手に持っていた本を差し出してきた。それは偶然にも、俺が昼休みに手に取った本だった。 「これなんか、どうかしら。グリム童話。バッドエンドのお話が少ないから、わたしはあんまり好きじゃないけれど、短編といえばそうね」 「バッドエンドが好きなんですか?」  思わず聞き返す。 「ええ。切ないお話が好きなのよ。……ハッピーエンドが好きなら、ピッタリなんじゃない?」 「彼女は」 「え?」  窓の外から、ひときわ強い風が吹き込む。 「……いつも昼休みに居る」 「梨由さんね。そういえば、梨由さんが童話を読んでるところ、見たことない気がするわ。で、彼女がどうかした?」 「いえ、なんでも」  本を開いて、さりげなく中にメモ用紙を滑り込ませる。先生には見えない位置でその動作を追えると、軽く会釈をして図書室を出た。  彼女が本を開かなくても、そのときは俺が直接言えばいい。彼女が本を開いたなら、その時だって、俺が直接言えばいい。……ハッピーエンドになりますように。
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