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「ごめん、この本なんだけど」
ぽかんとした顔で見上げられ、若干言葉に詰まる。だが、もう後には引けない。俺は大きく息を吸い込んだ。
「……どこにあったかわかる? なおす場所、わかんなくなっちゃってさ」
きょとんとした表情で目をくるくる動かすと、彼女は弾かれたように立ち上がった。
「あ、そこ」
指差されたのは、俺がさっき本を手に取った棚。すごい、ちゃんと場所覚えてるんだな。
「そこの棚の上から三段目。同じ作者の本が並んでるから、そこに」
うなずいて、棚に近寄る。
「あった」
ようやく見つけられてほっとした、という風に声を上げた。にこりと笑う彼女につられ、思わず微笑んで、棚に本を戻す。そして、礼を言うために彼女に近づいた。
「ありがとう」
彼女は恥ずかしそうにもじもじとしていたが、俺はそのまま図書室を出た。
放課後に、もう一度図書室に行ったが、彼女はいなかった。
「本を探してるの?」
図書室の司書をしている先生に話しかけられ、俺は小さくうなずいた。
「短編がいいんですけど、なんかおすすめはありますか」
「そうねぇ……」
先生は少し考え込んだ後、手に持っていた本を差し出してきた。それは偶然にも、俺が昼休みに手に取った本だった。
「これなんか、どうかしら。グリム童話。バッドエンドのお話が少ないから、わたしはあんまり好きじゃないけれど、短編といえばそうね」
「バッドエンドが好きなんですか?」
思わず聞き返す。
「ええ。切ないお話が好きなのよ。……ハッピーエンドが好きなら、ピッタリなんじゃない?」
「彼女は」
「え?」
窓の外から、ひときわ強い風が吹き込む。
「……いつも昼休みに居る」
「梨由さんね。そういえば、梨由さんが童話を読んでるところ、見たことない気がするわ。で、彼女がどうかした?」
「いえ、なんでも」
本を開いて、さりげなく中にメモ用紙を滑り込ませる。先生には見えない位置でその動作を追えると、軽く会釈をして図書室を出た。
彼女が本を開かなくても、そのときは俺が直接言えばいい。彼女が本を開いたなら、その時だって、俺が直接言えばいい。……ハッピーエンドになりますように。
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