4.もののけ本屋

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 と、やつが幼子をいさめるような口調で注意してきおった。先代より長生きしているわたしに何という言い草だろう。あまりに面白いので、先代の時と同じように、わたしの正体は教えてやらない事にした。先代は、わたしのおかげで、この店が潰れずにいたことがわかっていたのだろうか。いや、きっと死ぬまで知らなかっただろう。 「わたしは、先代の父が生きていたころから世話をしてやっていたというのに」  まったく。思わずそう吐き出すと、ぽかんとした顔で呆けた後、あいつは納得したように言った。 「ああ、これがじいちゃんが言ってた座敷童か」 「え」 「なるほどな、これからもこの店をお願いするね」 「いや、ちょ」 「まさか本当にいるなんてなぁ」 「ちょっとは黙らんか! 何を一人で納得しておるのだ!」  ごめんごめんと、へらへら笑いながらやつは言った。全然すまなそうに見えない。 「あ、俺はうっぱらいに来たんじゃないから。この店、継ごうと思ってさ」  今度はわたしがぽかんと口を開ける番だった。 「な、んだと……。お前がか?」 「え、うん。そうだけど」  相変わらずへらへらしているこいつに、本当に本屋ができるのだろうか。大いに不安だ。 「生半可にやるつもりなら、わたしはここから去る」 「別に、そんなんじゃないよ」  睨みつけると、やつは黙ってこちらを見返してきた。さきほどまでのへらへら笑いはどこかになりを潜めている。ほう、黙っていれば中々綺麗な顔をしているのに、勿体ない。 「俺は、昔から本が好きでさ。じいちゃんが家に遊びに来てくれた時に、一冊の本をくれたんだ。ちょっと、待ってて」  言うなり、表へかけていくあいつの後姿を見送る。しばらくすると、いやに嬉しそうな顔で一冊の本を差し出してきた。 「これだよ、これ。じいちゃんの大切な友人が、これを薦めてくれたから、お前も読めって」 「ほう、興味深い。お前の爺は、わたしを友人と思っていたのか」
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