5.運命の糸

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『ねえねえ、お母さん。お母さんの小指の、その糸はなぁに?』 『え? 糸? ……もう、何もついてないじゃない。何を言ってるの?』 『え……? だって、小指に赤い糸が……』 『もう、変なこと言って』 また、似たような夢を見た。 寝ぼけ眼で、目覚まし時計に手を伸ばす。 「7時……」  ゆっくりベッドから降りて、部屋から出る。学校に行かなくては。小さいころから、本に関わる仕事がしたかったわたしは、夢を叶えて先月から高校で図書室の司書をしている。  朝食を食べて玄関から出ると、隣で店をやっている本屋の前に車が止まっていた。丁度、中から人が出てくるところだった。だが、ここの店の主は先週亡くなったばかりだったはずなのに、なぜ車が……。親族か、とここで思い当る。 「こんにちは」  車から出てきた男の人に軽く会釈をした。相手も、にこりと微笑んで軽く頭を下げる。 「こんにちは、祖父のお知り合いの方でしょうか?」 「ええ、そうです。というより、西口さんとはお隣さんでした」 「それは、祖父がお世話になりました」  丁寧な人だ。しっかりしている。そして、彼が続けた言葉にわたしは少し驚く。 「これからも、この店をよろしくお願いしますね」  そうか、と少し納得した。あまり本を読まなさそうな印象を受けたから、中の書籍を売っぱらいに来たのかと思ったのだ。……申し訳ない。 「はい、開店したら一度行かせていただきますね」  それでは、と言って背を向けた瞬間だった。
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