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「きゃ!?」
何もないはずなのに、躓いた。ぐらりと揺れる体。いやにゆっくりと、視界が揺れる。
「……大丈夫ですか?」
思わず閉じた瞼を開くと、心配そうに聞かれる。そして、視界の隅に赤いものがちらついた。その瞬間、掴まれていた手を振り払う。
「え、あの……すいません」
不本意そうに、彼の目が揺れた。自分の胸の鼓動がいやにうるさい。
「……失礼します」
うつむいたまま、学校に向かって駆け出す。何も考えられないまま必死に走って、図書室に入った。
「見ちゃった、どうしよ」
視界に入った赤い糸は、長く細くのびていた。幸い、どの方向に続いているのかは見えなかったが。
「……落ち着け。落ち着くのよ、わたし」
椅子に座り、本を開く。表紙に書かれている題名は『赤い糸』。
運命の赤い糸。小指に繋がるその糸は運命の相手と自分とを繋いでいるという。触れた相手の、赤い糸が見えてしまう。そう言っても、誰も信じてくれやしないだろう。
「運命の相手を勝手に見るなんて、人の大切なプライバシーを踏みにじるのと同じだもの」
そう、それがわたしのポリシー。なるべく、人の赤い糸の先は見ない。たとえ遠くへ繋がっているのだとしても、方向さえできることなら見ない。そうして、大人になるまでを過ごしてきた。
そして、昨日偶然にも見てしまった赤い糸を思い出した。二人の生徒の赤い糸が繋がっているのを、わたしは見てしまったのだ。
その生徒は、あまり図書室に来ない生徒だった。どうやら夜寝る前に読む、短編集のような本を探しているのだという。わたしは、近くにあった童話を手渡した。するとその生徒は、何かを思いついたらしかった。その翌日だった。
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