6.おもひでのかほり

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 雨上がりの空には綺麗な虹がかかっていた。そして、雨上がり独特の匂い。この匂いを嗅ぐと、いつも脳裏に浮かんでくる声があった。  昔、幼い頃にじいちゃんに聞いた不思議な話。そう、たしか、神様とか言ったっけ?  樹。お前に、わしの友人の話をしてやろうか。そう言って、目を細めたじいちゃんの顔を、俺は今でも覚えている。  わしが、本屋をしておるのは知っとるよな? その本屋にな、ある日、小さい女の子がやってきた。その子はわしをちらりと見た。当然、目があって、すると女の子はさも嬉しそうに言ったんじゃ。 「ようやくいいところを見つけた」 「ほう、本が好きなのか? 小さいのに、珍しいのぅ」  わしは、普通にこんなに幼い子が一人で、こんなに寂れた本屋に来るとは思うておらんでの、それゆえの言葉だったんだが、その子は思い違いをしたみたいでな。 「なに? おぬしが大きすぎるのだ。ちょっとは縮まらんか」 「それはちと無理だな。ほれ、こっちに来んか。どれが読みたい?」  尊大な口を聞いたわりには、素直に近づいて来よった。そして、この本を指差したんじゃよ。ほれ、樹。お前にやった本だ。持って来てみい。そう、それだ。 それから、その子はの、一心に本を読み、読み終えた後、わしにその本を差し出したんじゃ。 「それはわたしの薦めだ。読んだらいい」  そう、まさにお前が持ってる本だ。樹よ、お前にはちと早いがの。もう少し大きくなったら、読んでみるんじゃぞ。  ん? ああ、それからその子はどうなったかだって? それからずっと、その子は店に居続けてくれておるよ。……ここだけの話じゃ。この先の話は誰にも言うたらいかんぞ。いいな? 樹。  あの子はの、神様なんじゃよ。正直に言うとな、店はもう閉めようと思っておったんじゃ。けどな、その際にあの子と出会った。あの子が来てから、不思議と店が繁盛しておってな、店じまいをしなくてもよくなったんじゃ。  いいか、樹。あの子はわしの友人で、その本は友人に薦められた大切な宝じゃ。決してなくしてはいかんぞ? わかったな?
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