6.おもひでのかほり

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 大きくなってから、店が繁盛する子供の容姿をした神様について調べた。でも、正体は分からなかった。けれど、日本のお化けに、思い当るものがあった。それは、座敷童。家を裕福にするが、ひとたびその家を離れると、その家はひどく衰えてしまうという。  彼女はまだ、この店にいるだろうか。もしかしたら、じいちゃんの死も、彼女が店を離れたからなのかもしれない。そんな失礼な考えが、一瞬脳裏をよぎる。馬鹿な。じいちゃんに本を薦めてくれた大切な友人だ。そんなことを考えるなんて、失礼極まりない。店を救ってくれた恩人でもある。……人ではないが。  車に乗せたままの本を想った。題名は、『赤い糸』。もしかしたらじいちゃんは、いつか自分が死んだとき、彼女に会えるようにと俺にこの本を渡したのかもしれない。  考えすぎかと、自嘲気味に笑う。らしくない、こんなに考えても意味が無いのに。分からないなら、直接聞けばいい。店は目の前にある。  俺はもう一度、雨上がりの匂いを吸い込んで、店のドアを開けた。ふわりと舞う埃、本棚の奥に見え隠れする人影。よかった。まだ、居てくれた。  これからの楽しい時間を思って、俺は少しだけ微笑んだ。
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