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「え? あ、帰ってきてたのね。今日は、お友達と一緒じゃないの?」
「いないよ。僕、一人で来たの」
「そうなの? で、どうして閉めるって思ったの?」
もじもじと躊躇ったように俯いて、男の子はぼそりと呟くように言った。
「……だって、昔はお菓子屋さんも八百屋さんも、今よりずっとずっと、たくさんあったのに。どんどん閉まって行っちゃったから。その……お姉さんも、お店、閉めちゃうんじゃないかって」
立ち上がって、ドアの方へ近づく。驚いたように、男の子は身をすくませた。わたしは自分がしていたマフラーを、首から外す。そして、男の子の首に、マフラーを巻いてあげる。
「大丈夫。お姉さんは、お店を閉めたりしないよ」
「ほんとに?」
「うん、ほんと」
くしゃりと笑顔がこぼれた。そして、その頭をゆっくり撫でながら、わたしは言う。
「兎々、大丈夫。君はね、何も心配しないの。子供はね、心配しないでいいんだよ」
「でも」
言葉を続けようとした口に、人差し指を当てがって黙らせる。
「兎々はきっと、わたしの寒がりな心が生んだんだね。だからそんなに寒がりなんだね。寒さと寂しさは繋がってると思うんだ。ほら、ウサギは寂しいと死んじゃうでしょ? だけど、わたしには兎々がいるし、兎々にはわたしがいる。ね、寂しくない。寒くない。大丈夫だよ」
半ば、自分に言い聞かせるように、わたしは兎々に言った。兎々はわたしだし、わたしは兎々だ。だから、あながち間違っていないと思う。
「僕は、雪兎だよ? 暖かすぎると溶けちゃう」
「知ってる」
顔を見合わせて、くすくす笑う。でもね、寒すぎてもダメなんだ。心の中でよみがえった言葉は、兎々と初めてあった日に、言われたことだった。
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