7.モノクローム・クロック

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 この男の子、もとい兎々は、初雪が降った先月に突然現れたのだ。その日、朝から異常なほど寒かったことを覚えている。  息を吐いて、手のひらに吹きかける。息が白い色を纏って、手のひらをおおう。かじかむ指を動かしつつ、窓を開けた。 「きれいだなぁ……」  雪化粧で飾られた商店街は、いつもの寂しい雰囲気はどこへやら、とても綺麗な銀世界となっていた。今すぐ外に駆けだしたい衝動を押さえつつ、寝間着から着替えて、朝食を摂る。窓の外ではまだ雪がちらついていた。  外に出ると、小さい子供が何人か雪合戦や雪だるまを作っているようで、その母親も近くで談笑していた。微笑ましい気持ちでそれらを見ながら、雪で覆われた地面を歩く。  雪を踏みしめるたびに、キュッキュッと断続的に鳴る音が耳に心地いい。 「久々に、雪兎でも作ろうかな」  周りに人がいないことを確認して、雪を手に掬い取る。ふと、高校生の頃に作った雪兎を思い出した。自分で作った雪兎のとなりに、ちょっと歪な形の雪兎が寄り添っていたことを。それを見て、一緒にくすくす笑いあった人が居たことを。 「木江さん」  一瞬、聞き間違えたかと思った。出来上がったばかりの雪兎をそっと地面に置き、顏を上げる。 「……久しぶり」  見上げた先には、男の人。聞きなれた声。そして、久々に聞く声。いつもはへらへらしてるくせに、ちょっとした瞬間にとても重い響きを持つ声。 「なんで、来たの」 「ちょっと、それはないでしょ」  相変わらずへらへらと笑いながら、彼は言った。何を考えてるのか、さっぱり分からない。それは高校時代に感じていたことと同じだ。一つ息を吐いて、立ち上がる。 「帰る」 「あ、待ってよ」  彼の声に背を向けて、走った。必死に走って、走って。見慣れた時計屋の看板が見えたとき、わたしは安堵のため息を吐いて、彼が追ってきていないことを確認するために後ろを向く。 「ぎゃっ!」  小さな悲鳴。そして、足元には小柄な男の子が倒れていた。 「ど、どうしたの? 大丈夫?」  慌てて駆け寄って、その体の冷たさに驚きながら抱き上げ、とりあえず店の中に入った。  布団に寝かせ、暖かいホットミルクを作って持っていく。布団の中からうめき声が聞こえ、もぞもぞと布団が動く。 「あ、起きた?」 「……なんで置いて行くの?」 「え」
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