2人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、彼女と会えたのは一週間後だった。
「おい、今は暇か」
会った直後にそう聞かれ、僕は首をかしげつつも頷いた。
「なら、丁度いい。ついてくるがいい」
「え、ちょ、座敷ちゃん?」
自分より背丈の小さい座敷ちゃんに強引に引っ張られ、連れていかれた先はあの本屋だった。
「もう、なんなんだよ、一体!!」
「黙れ。耳が痛い」
言葉だけだと、冷たいが、声音は暖かい。座敷ちゃんはいつもそうだ。
「座敷、どうしたの? いきなり外に出ろって……あれ? 友達?」
聞きなれない声に、思わずびくりと身をすくませる。背丈が高く、思わず口を開けて見上げていると、その男の人はくすりと笑った。
「座敷にも友達がいたんだね。よかったよかった。こんな性格だから、心配してたんだ」
半目になって、座敷ちゃんは男の人の足を蹴飛ばす。男の人は、なだめるように座敷ちゃんの頭を撫でる。
「名前は?」
「兎々! こんなやつに名など名乗らんでいい!! 戯言しか言わぬような奴だ」
「へぇ、とと……くん?」
墓穴を掘った座敷ちゃんは、顏を真っ赤にして男の人を睨んでいる。僕は、困ったように微笑むと、うなずいた。
「本屋の、人? おじいさんは、亡くなったんじゃ」
「俺は、じいちゃんの孫ね。樹って呼んで。よろしく」
「タツキ?」
繰り返すと、呼び捨てか、と苦笑される。
「まぁ、いいや。ところで、兎々くんは普通の人?」
どきりとした。困ってしまって、思わず座敷ちゃんを見る。
「知らん。お前が自分で考えて答えろ」
無愛想な返事が返って来た。まぁ、仕方ないか。自分の事くらい、自分でやれって、いつも怒られるから。僕は、口を開く。何を伝えるにしろ、言葉にするのはいつも、少しだけ勇気がいるけれど。
「……僕は」
「うん、そう。わかった」
え、まだ何も言ってない。けど、タツキは微笑んだまま、納得したように頷く。そして、ふと僕の手を握った。
「寒い?」
「え?」
「いいから、答えて。寒い?」
有無を言わさぬような口調に、僕は思わず頷く。
「よし、じゃあ。親切なお兄さんが一つアドバイスをしてあげる」
ぴくりと、僕じゃなくて、座敷ちゃんの肩が揺れる。聞き耳を立ててるのがわかった。
「伝えたい事は、ちゃんと伝えなきゃ。待ってても伝わらない事だって、たくさんあるんだから」
最初のコメントを投稿しよう!