1.雪兎マフラー

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 その後、彼女と会えたのは一週間後だった。 「おい、今は暇か」  会った直後にそう聞かれ、僕は首をかしげつつも頷いた。 「なら、丁度いい。ついてくるがいい」 「え、ちょ、座敷ちゃん?」  自分より背丈の小さい座敷ちゃんに強引に引っ張られ、連れていかれた先はあの本屋だった。 「もう、なんなんだよ、一体!!」 「黙れ。耳が痛い」  言葉だけだと、冷たいが、声音は暖かい。座敷ちゃんはいつもそうだ。 「座敷、どうしたの? いきなり外に出ろって……あれ? 友達?」  聞きなれない声に、思わずびくりと身をすくませる。背丈が高く、思わず口を開けて見上げていると、その男の人はくすりと笑った。 「座敷にも友達がいたんだね。よかったよかった。こんな性格だから、心配してたんだ」  半目になって、座敷ちゃんは男の人の足を蹴飛ばす。男の人は、なだめるように座敷ちゃんの頭を撫でる。 「名前は?」 「兎々! こんなやつに名など名乗らんでいい!! 戯言しか言わぬような奴だ」 「へぇ、とと……くん?」  墓穴を掘った座敷ちゃんは、顏を真っ赤にして男の人を睨んでいる。僕は、困ったように微笑むと、うなずいた。 「本屋の、人? おじいさんは、亡くなったんじゃ」 「俺は、じいちゃんの孫ね。樹って呼んで。よろしく」 「タツキ?」  繰り返すと、呼び捨てか、と苦笑される。 「まぁ、いいや。ところで、兎々くんは普通の人?」  どきりとした。困ってしまって、思わず座敷ちゃんを見る。 「知らん。お前が自分で考えて答えろ」  無愛想な返事が返って来た。まぁ、仕方ないか。自分の事くらい、自分でやれって、いつも怒られるから。僕は、口を開く。何を伝えるにしろ、言葉にするのはいつも、少しだけ勇気がいるけれど。 「……僕は」 「うん、そう。わかった」  え、まだ何も言ってない。けど、タツキは微笑んだまま、納得したように頷く。そして、ふと僕の手を握った。 「寒い?」 「え?」 「いいから、答えて。寒い?」  有無を言わさぬような口調に、僕は思わず頷く。 「よし、じゃあ。親切なお兄さんが一つアドバイスをしてあげる」  ぴくりと、僕じゃなくて、座敷ちゃんの肩が揺れる。聞き耳を立ててるのがわかった。 「伝えたい事は、ちゃんと伝えなきゃ。待ってても伝わらない事だって、たくさんあるんだから」
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