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「平原 千夏ちゃーん、
どうぞー、
3番診察室にお入り下さーい!」
「はーい!
ほら、千夏行くよー。」
私は嫌がる千夏の腕を引っ張った。
「いや!
チナおくちゅりキライ!」
「ダメだよ。
今日は千夏の大好きな人が来るんだから!
コホンコホンお咳をしてる子には会わせてあげないよ?」
「やあだー!!」
「じゃあ良い子だから言う事聞いて、ね?」
千夏は頬をプクーッと膨らませて不貞腐れている。
だけど仕方なしか嫌々コクンと頷くと、私はようやくこの駄々っ娘を連れて診察室に入る事ができた。
あーんと口を大きく開けている千夏を見ながら私は3年前の事を思い出していた。
ここと同じような古びた病院で、私は二人の男性にプロポーズをされた。
だけど私は生まれてきた子が女の子だった事に驚き、そんなものはとうに頭から消えていた。
ずっと男の子だと思い込んでいた私は、
頑なというか頑固というか…、最後まで医者からの話を聞かずに出産に臨んでいた。
私にそっくりな女の子。
夏にはちっとも似てないような気がする。
それでも嬉しい。
心の底から嬉しい。
夏は私にそっくりな女の子が欲しいと言っていたから…。
夏が生きていたらきっとこの子を溺愛するに決まってる。
そして私はそんな事を想像するだけで幸せになり、千夏を見れば自然と笑みが溢れてしまうのだ。
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