【26】くるみのオトコ

8/30
855人が本棚に入れています
本棚に追加
/783ページ
「さーてと、そろそろ寝よっかなー。」 春陽はうーんと伸びをしてから靴を履いた。 縁側から歩き出した春陽に私は「おやすみ」と声をかけ、 春陽はそれに足を止めてクルリと振り返る。 「次来る時はおもちゃのピアノを持ってくるよ。 千夏にピアノを教えていい?」 「フフッ、先生よろしくお願いします!」 私の声と共に春陽は手を振ると、そのまま前を向いて母屋へと歩いて行った。 そして翌日になって私たちが起きた頃にはすでに春陽の姿はなく、早朝急いで帰ったのだとお母さんから聞かされた。 するとそれに剥れている小童が一人。 この怒りようだと父親が今日にでも帰って来てくれないと大変だ。 口を尖らせて大の字で寝転んでいる千夏を見つつ、 私は昨日のアイツとの電話の内容を思い出していた。 『悪りー。 今日帰れなくなった。 千夏には帰ってから俺が謝るから。 じゃあな、明日には帰るから。』 たったこれだけだった。 それにこの電話で私は一言しか喋ってない。 『はい。』 開口一番のこれだけ。 だったらメールでいいじゃん! それとも打つ事すら面倒ってか! ピキッと青筋が浮かんでくるのを抑えながら、私は千夏のご機嫌取りを開始する。 .
/783ページ

最初のコメントを投稿しよう!