【26】くるみのオトコ

13/30

856人が本棚に入れています
本棚に追加
/783ページ
多分、今後ろを振り返れば青ざめてる千秋がいるんだろうな…、 何て少しだけ意地悪だったと反省する。 新しい家族。 3年前、私は千秋のプロポーズを受け入れた。 それはあまりに予想外なプロポーズだったからだ。 だって本来なら私は誰の手も取るつもりはなかった。 生まれてくる子を一人で育てようと決めていたから…。 ……………………。 『元気な女の赤ちゃんですよ! おめでとうございます!』 私の分娩のお世話をしてくれた看護師さんの言葉。 私はその一瞬だけ記憶が飛んだ。 『平原さん? ちょっと大丈夫ですか?平原さん?』 『あっ、は、はい!大丈夫です!!』 私はビクッと跳ね上がって思わず胸元に抱いてる赤ちゃんを落としそうになった。 だけどそんな事とは露知らず、赤ちゃんは気持ち良さそうに寝ている。 さーて、どうしようか…。 私は男の子なら『夏芽』と命名しようと決めていたけど、 生まれてきたのが女の子となると…、 うーん。 何も思い浮かばなかった。 見れば見るほど私にそっくりな顔立ち。 私はその子の鼻をちょんと突いてみる。 まだ無反応な彼女になぜかジワリと愛しさが湧いた。 ん?何だこれ? ジワジワと押し寄せる歓喜。 気が付けば目尻から涙が溢れ出ていた。 母親になったんだ…。 こんな涙があったんだと……、 これは夏芽を喪ってから私が初めて流した嬉し涙だった。 .
/783ページ

最初のコメントを投稿しよう!

856人が本棚に入れています
本棚に追加