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まあ、3年にもなれば素行が悪いのも正して、新社会人とか大学とかそんなものに向かっていくのだけれど。
違う高校に行った親友が「不良」を卒業して「更生」したっていうから、伍嶋は久しぶりに帰郷した。もっとも、「卒業しました」とか、連絡があったわけではない。たまたま、彼の母親が最近は真面目にしていると言っていたから、そう思っただけである。
伍嶋の小・中学時代の親友は南郷清正といって、忠宣という出来の悪い弟がいる男だ。
彼の家は裕福で、お金持ちの坊ちゃんであった。しかし、彼の家の近所は皆そういう人たちの集まりであった。いわゆる閑静で高級な家が立ち並ぶ高級住宅街である。つまり伍嶋こと伍嶋さとし家も例にもれずお金もちの類であるのだ。
なんていうか、不良をやめたというか、人間ってのもやばいんじゃないか?
伍嶋はぬるくなった紅茶を手にしたまま、顔色の悪い元親友を横目に見ていた。
さわさわと周りが幾分騒がしい。
それも、そうなのだ。
南郷兄、黙っていればチョウ美形の類である。それが、今悩ましげな鬱々とした表情でいることは一種の憂いを含み人目をひくのだ。
また、元親友の伍嶋も高級住宅街出身のせいなのか、ツーブロックにした頭にゆるくパーマをかけ涼しげな首元と、くっきりとした二重だがどこか涼やかな目元の端正な顔立ちをしているものだからどこぞのモデルが二人、撮影の合間を縫ってお茶でもしているのではないか、といった具合である。しかし、店内にいる女子もさすがにどこのテレビや雑誌で見かけた人物ではないとわかっているから微妙なざわつきなのである。
伍嶋の記憶にある南郷兄は歳に似合わず大人びていつも余裕の不敵な笑みを浮かべながら、容赦なく人を蹴り上げるような男である。
こんな憂いに満ちた表情をするようになるなんて、最近真面目にしているという彼の母親の話があながちウソではないと思えた。
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