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「……分かった」
淡々と。それでいて底のない威圧感の満ちた声に、小さく呟くスー。口内から水分という水分が全て失われているが故に、唇から少量の血が滲む。
しかし、その鋭い痛みがこの冷えついた空気に晒された身体を動かす切っ掛けとなった。
身体をぐるりと回し、少年は背後の気配へと顔を向ける。
無意識下の中で、『召還王』として何時でも動けるように構えながら。
そして――そこにいたのは。
紛れもない『最強』だった。
◆◆◆
数分前
ライトは、続々と自分に声をかける人間達をただただ平等に見つめていた。
顔が良かろうが悪かろうが。太っていようが、痩せていようが。女であっても、男であっても。
誰も彼も、平等に。
おおよそこの年代の少女に出来るものではないし、きっと人間を平等に評価するなど誰にも出来ないのかもしれない。
もしも出来るとするのならば、それは余程の博愛主義者か――
――……みんな。
――本当にゴミみたいなものばかり。
ライトのように、全てを見下すような存在だけなのだろう。
いや、少女は何も全人類全てを見下している訳ではない。
スーやマスターといった仲間達、それに準ずる者には多少なりとも近いものは感じている。
だが、彼等以外はライトにとって全てが塵芥に等しいのだ。
どんな言葉を並べ立てられようとも、どんなに顔の良い人間に口説かれようとも――――
ステージの違う存在に、話しかけられているようにしか感じられないのだ。
分かりやすく例えるならば、常人が虫に話しかけられているものに近いだろうか。
それがどれだけ不幸なことなのかは、ライトには分からない。この感覚が普通だったのだから――理解しようもなかった。
そして、だからこそ――ライトはクラスメイトである筈の周囲の色めき立つ言葉を笑顔で受け流す。所詮、虫の戯言という調子で。
「やっほ、どうした? 転校初日でブルーな顔して。このサンちゃんが一緒にご飯してやろうかい?」
と、そんな時だった。
ライトの視界の端で、何やらスーに陽気に話しかける緑髪の少女の姿が映ったのは。
――……?
呆気に取られているスーを横目で見ながら、心中に疑問符を浮かべるライト。
彼はこの教室に来てから間もない筈だ。話しかけられる事はあれど、あそこまで呆然とする理由がない。
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