星蛇

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分からない。 理解出来ない存在。現象。ライトの価値観を丸ごと引っくり返すような青年が――そこにいた。 瞬きすら出来やしない。清楚に閉じられた唇は一切の潤いが失われ、血が滲む程だ。 そもそも、一番不可解なのは――鋏を弄るこの青年が、外見的には普通の人間と全く変わらない事か。 寧ろ、人間の姿でなかった方が安心できた。自身の力の根元にある神の姿をしていた方が、まだ理解出来る。 ――いや。 しかし、ライトは浅はかな懇願にも似た思考を一蹴。思考や視線を全て奪い去られながらも、彼女は確信すら覚えていた。 この男は――創造神などという大仰なものを軽く凌駕する力を持っていると。 だが、見れば見るほどおかしい。異常極まりない。何故、この存在は人間の形をしているのだろうか? 身長はスーよりも大きく、肩幅も年齢不相応の厚みと広さを持っている。 目付きも鋭く、その表情には微かな虚無感が入り交じっており――とても同じ年齢だとは思えない。 短い黒髪は、お世辞にも整えられてるとは言いがたい。 だが、しかし。それでも――ライトは空気を凍らせる存在に全てを奪われていた。 己の価値観を押し潰す『最強』に。 凍り付く二人の最強――だったもの。周囲は先刻と変わらず、固まるライトに話し掛けているが、少女に返す余裕はない。 息をする余裕すらない。 そんなライトとスーの様子に、青年――ドラグ・フォーリスは普段と変わらない一歩を踏み込んだ。何の面白味もない弱者が、また二人増えたとばかりに。 彼にとっては、スーやライトであっても、ランドの生徒と同程度でしかなかった。一と億では多大な差があるように見えても、数字の概念を超えた存在からすれば同じだとばかりに。 その後は、無言で席に付くドラグ。既に何の興味も抱いてないのか、二人には視線の一つも向けずに本をパラパラと捲っている。 が、ライト達からすれば――ふざけるな、という話だ。こんな化物が、こんな場所で何をしているのか。 寧ろ、自分が生きていることすらも信じられない。思わず、スーは胸に手をおいて鼓動を確認してしまう。 「アイツアイツ……アイツだよ、朝、私が言ってたのは」
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