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そして、世界は歯車を求め続ける。
世界は、世界は、世界は。全てを動かす歯車を求め続ける。その歯車一つで、全てを回すような歯車を。
笑顔で全てを狂わせる歯車を。腕力で全てをねじ曲げる歯車を。数値と救済で全てを包み込む歯車を。孤独と復讐、そして愛で全てを破壊する歯車を。
努力で全てを形成する歯車を。悪意で全てを台無しにする歯車を。教えで全てを導く歯車を。唯我独尊で全てを平伏させる歯車を。
何故? そんなものは決まっている。
世界は求めているからだ。その歯車が絡み合い、単体では一つの歯車でも、そこから生み出す、産み出される何かを。
それこそが、全ての歯車を一息で台無しにさせる怪物に対抗する何かだと信じて。信じながら。
◆◆◆
夕刻 ランド 男子生徒寮
全ての抗議を終え、ドラグは一度図書館へと出向いてから、数冊ばかりの本を携える。
そして、何の興味も周囲に見せずに帰途へつく。
周囲の生徒達も、同じようにドラグへと視線を向けたりはしない。だが、同時に彼等にはあるべき感情がなかった。
それは――畏怖。
有能な若き原石達とはいえ、ドラグとの力の差は歴然である。
そもそも、比較の対象とすら呼べやしない。誰も虫と広大な宇宙の質量を比較しないように。
しかし、それでも彼等には畏怖が無かった。それ以前に、ドラグの長身を前にしても――目の前に立つ生徒ですら、目も向けずにいる。
――……どういう事、だよ。
そんな異常を前に、後ろを隠そうともせずに歩むスーは疑問を胸にした。
隠れる必要性が感じられない実力差を持つ男の尾行。この場合、劣っているのはスーの方である。
下手にコソコソとしても、意味はない。ならば、堂々と数歩分の距離を置いて歩みを進めていたのだが――
どうして誰もあの青年に興味を抱かないのか? 例え、実力差を感じ取っていなくとも、あれだけの長身を前にすれば咄嗟に身を固めるだろう。
しかし、同じようにして男子寮の廊下を進む生徒達には、その色が見られなかった。堪らず、スーは付近の一年生らしき小柄な男子に声をかける。
「……おい、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「あ、あ、え……あの、何でしょう……?」
見た目は気だるげに制服を着崩すスーは、どうしても敬遠されがちな人種に見える。男子生徒の緊張も、尤もなものだった。
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