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二十年前――
現在は最強国家としての地位を完璧に確立したグラバラスでも、不安定だった時代もある。
無論、盛者必衰の理を当て嵌めれば――グラバラスも何時かは朽ち果てていくのだろうが。
もっとも、その不安定な時期を不安定と取るかは人によって千差万別なのかもしれない。
今はグラバラスに吸収され、最強の名に荷担するギルド・スタージャ。
この組織が――まだ独立していた時代。
即ち、グラバラスと敵対状態にあった時。その時代はまさに、冷戦などとは表現出来ない程に世界に緊張が走っていたのだ。
例えるならば、何時爆発してもおかしくない爆弾を枕にするような緊張感。ふと気付く間もなく、国一つ消えてもおかしくない恐怖が世界を覆っていた。
そんな世界が――一人の少年によって崩壊するなど、この時は誰も知らない。今はまだ――誰も。
◆◆◆
まさに塔と城を融合させたような空間を前に、一組の男女は軽く目を見張る。
天をも突き抜けるのではないか――そう錯覚させる程に巨大な建築物。
放牧しても全く問題はないのではないかという、広大な敷地。
男女の前にそびえる門も大層立派なものであるのは間違いないが、それでもこの人類の叡知の結晶を前にすれば――誰だって息を呑む。
それは、この一組の男女とて例外ではない。
二人とも年齢は、十代半ばといった所だろうか。互いに端正な顔立ちをしているが、二人とも呆気に取られたのか開いた口が塞がっていない。
「……情報では聞いてたけど、実際に見ると凄い」
腰まで伸びた金髪を乗せた少女が、はためく風すらも気にせずに呟く。
透き通るような白肌に妖艶な目元を見開く少女は、まさに絶世の美少女という言葉が当てはまる風貌を持っていた。
男からだけでなく、同姓すらも虜にするような魔性すらも兼ね備えて。
引き締まった腰に、形の良いバスト。人形なのではと疑うくらいに長い手足。しかし、そんな天使のような風貌を持っているにも関わらず、少女が直後に紡いだ言葉は――――
「ねぇ」
「あ? どうせ、ろくなこと言わないんだろ? 最上階から落ちろとか言うんだろ?」
「あーあ、当てちゃった。スーの癖に、私の考え当てちゃった。じゃあ、罰としてあそこから地面にキスしてこい」
「ハァッ?! 普通、そこは当てたからやらないってなるだろうが!!」
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