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今までライトと共に過ごした時間は、人生のほとんどを占めていると言ってもいいスー。
だが、彼女の口から「もん」などという語尾が付いたのは、初めての事だった。
生まれながらにして、傲慢。大胆不敵。周囲を見下し、人を人とも思えぬ力を持った少女――ライト。
その彼女の口から、あんな語尾が付くとは、誰が想像出来ようか。実際、我が耳で確かに捉えたスーですら、思考に一瞬の空白が挟まれる。
「えーっと……取り敢えず落ち着こうか。ま、まぁ、よく分からんが……あの、アレだよアレ。そのアレがソレでこうだから、色々しなきゃな?」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、空白を繋ぎ止める為にスーは汗を飛ばす。
「何言ってるの?」
「あぁ、そうだよな……俺も分からん」
「頭大丈夫? 一回死んだ方が良いよ、というか目障りだから消えて。私は色々と考え事があるんだから」
――……ここ、俺の部屋なんだけどな。
息を吐く間もなく放たれる言葉の弾幕に、青年は眉をひそめながらも胸を撫で下ろした。
先刻のは、ただの幻聴なのだと。やはりライトは普段通りなのだと。
そして、目前でぺたりと座る女神と言っても差し支えない少女は、明らかに不機嫌になっているのも事実。
「……スタージャに余計な混乱させない為に、俺が適当に使者送っとくからな? ここから出るときは、転移使えよ? 男子寮なんだからよ……っとぉ!!」
言葉を紡ぎ切る瞬間、耳を掠めた一本の鎖から距離を取り、スーは自分の部屋からそそくさと逃げ出した。
彼女の面持ちを、最後まできちんと確認しないまま。
ライトの頬が、ほんの僅かに朱に染まっている事を。少女の瞳が、自身の感情に振り回されたせいで、潤んでいた事を。
◆◆◆
ランド 男子寮の一室
ランドとは、世界最強の国と揶揄されるグラバラスの若き原石を育て上げる最高機関である。
故に、歴史ある貴族の子息や――才能ありき少年少女がそこへと集うのだが、だからこそ性の管理は厳しく取り締まられていた。
例えば、このご時世にも、当然家柄を気にする輩は大量にいる。
大貴族の娘と、ほんの少し器量が良いだけの少年が付き合うだけならまだしも、そういう事になってしまえば――――
という観点から、ランドでは男子寮と女子寮には、強大すぎる結界が張られていたのだが――
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