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「でさぁ、やっぱり私は思う訳なんだよね。ドラグの魅力ってのは、普段仏頂面してる癖に、たまに見せる格好よさとか笑顔とかにあるんじゃないかって。普段から優しい男ってのは、ちーっと物足りない訳よ、分かる? ん?」
男子寮の一角。
それも、寮の一室や隠し部屋という訳ではなく――男子寮のエントランスに響き渡るのは、快活な少女の声。
本来ならば、謹慎――最悪の場合、退学の措置も視野に入れられる愚行だが、少女は気にも止めない。
それどころか、周囲で雑談を交わす男子生徒ですら、危機感を一抹も感じていなかった。
「そ、そんな事言われてもなぁ……僕はこれが普通だと思うんだけど……」
少女――サンからビシリと指を向けられたのは、ランド一の美少年と名高い少年。
後のゲート・ファラモスという、女子生徒の中で伝説となる青年の次点に位置する、端整な顔立ちが特徴的であるのだが、
「あー駄目。それが駄目。何か違うんだよねぇ、確かにあんたはドラグよりも顔は良いんだろうけど、何か違う」
「言ってやれ言ってやれサン。コイツの鈍感っぷりには、俺達も苛ついてるんだからよ」
「とか言っても、そこそこ強いから闇討ちも出来やしねぇ。取り敢えず、ドラグに頼んで殺してもらってくれや」
「そうすれば、私達にもちゃんと女子が目を向けてくれますからね」
「そ、そんなぁ!! お前達、酷すぎるよ!!」
周囲の男子生徒達は、美少年をからかうように愚痴を溢し合っている。
だが、こんな光景も、本来ならば有り得ない筈のものであった。
例えば、美少年――パラドロンは、その風貌故に、同姓から妬まれ――孤立していた。
例えば、その唯一の友人は――そんな彼を心の奥底では憎んでいた。
だが、その心境と立ち位置を全て無に返したのが、ドラグ・フォーリスである。
彼がその力の一端を見せつけた時、誰もが自身の位置を知り――また、ドラグの前では平等でしかないと自覚したのだから。その意味では、彼の存在はまさしく別格の一言で済むのだろう。
そして、それを裏から微力ながらも支えたのが、サン。彼女の生来の快活さは、隔たりを霧散させていた。
ランド側も、ドラグは無論の事――サンを特別視するのも、ある種妥当な判断と言えよう。
サンの本当に凄い所は、その特別扱いを周囲から全く妬まれない事なのだが。
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