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しかし、サンには全くその自覚はなかった。ただ自分のあるがままを思い、感じた言葉を投げかける――それだけだ。
故に、サンは未だに現れないドラグの姿をきょろきょろと探すように頭を振り、少年達に問いかける。
「あっれ? おっかしいな……ドラグってば図書室で本借りるから、ここで待ってろって言ってたんだけど……」
「ん? あぁ、そういえば部屋戻ったぞ?」
「転校生君……スーだっけ? アイツも……何かお供みたいに後ろ追ってたけど」
「……ふーん?」
一人複雑な表情を浮かべるサン。
あのスーと名乗る少年の正体は、流石に他の生徒達には気付かれていないようだ。そして、伝えるべきでないというのも十分に理解している。
余計な混乱は、生み出すべきではない。思い至ったら即行動が信条ではあるが、今回は騒動を広げないほうが賢明だろう。
尤も、それはランドの教師や生徒達の為ではなく――
――ドラグはきっとあの二人がスタージャの人間だと知られたら、殺しちゃうだろうからね。
――バレたら、あの二人も後がなくなって……少しでも被害を与えようとしてくるだろうし。それに、それに……ドラグには楽しんでもらわなきゃ。
――少しでも強い人達と日常を刻めたなら……きっと私の魅力にも気付いてくれる……。
あのライトとスーの為。ドラグの為。そして何より、自分自身の為に。
サンは、自身の力がドラグに遠く及ばない事を自覚していた。
ドラグに、世界を認識させるだけの力はない。人間をつまらないものだと思わせないほどのナニカはない。
だからこそ、サンは利用する。
強者を。ドラグに向かう怪物を。それが、ドラグに自分を女だと認識させる為ならば――
「ん~、じゃあドラグの部屋まで行きますかぁ……もしここに来たら、部屋に行ったって伝えといて」
「テメ、俺らは留守番係じゃねえぞ」
悪態を吐きながらも手を振る友人に背を向け、少女は足取り軽く前へと進む。無自覚に人を繋げる才能を持ちながら、自覚的に一人の男に尽くし尽くされたいと願う少女。
鼻歌を歌いながら、サンがようやくドラグの部屋があるフロアに辿り着き、一角を曲がった瞬間。
「……へ?」
何とも間の抜けた声音。サンは、これが自分の口から出ている物と認知できない。いや、目の前に広がる光景こそ、彼女にとっては信じがたいものだった。
◇◇◇
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