星蛇

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例えば、そう。 とある特定の人物を思い浮かべると胸が苦しくなる――何て経験は、思春期にほとんどの人間がするものだろう。 勿論、それは人によって差異はある。早熟な子どもは、思春期という言葉を知る前にソレを知るであろうし、そうでなくとも本や何かで予備知識だけは得る筈だ。 そして、他人の枕に顔を埋めて足をバタつかせる少女も、例に漏れず知識としては知っていた。 だが、理解する日が来るとは思っていなかった。 いや、より正確に言うのなら――――ライトは未だに自身が抱く感情の正体をハッキリと掴めていない。 ――うぅー。 ――うぅぅぅうううう!! 他人のベッドの上で、遠慮なしにシーツを滅茶苦茶にするライト。仮にその想いの対象がスーならば、彼も浮かばれるのだろうが、その気は全く持たれないのがスーがスーたる所以なのか。 何はともあれ、ライトは心を覆うモヤに苛立ちを隠せずにいた。 ――何これ……。 ――変。私が私じゃないみたい、訳分かんない、アレの顔を思い出すと……胸が苦しくなる。 自分の価値観を数秒で引っくり返した怨敵。 頂上から世界を見下ろしていた自分の視点が、否応なしに引きずり下ろされた感覚。 これは怒りなのだろうか? 血にまみれた人生を送ってきたライトは、懸命に冷静になろうと思考を張り巡らせるが――一瞬で否定する。 いや、これは違う。 感情の種類からすれば、一番近いのは憎悪や怒り。それらと同じように、心を囚われるような感覚に近いが―― ――…………違う!! ――何か……もっと感じていたいような……何か、もっとくすぐったいような……。何これ? 私、こんなの知らない……。 「知らないもん……!!」 自分が自分ではなくなる。普通の乙女ならば、この甘い苦しみの正体などすぐに到達出来よう。 しかし、ライトは普通ではない。恋なんてした事もない。寧ろ、一生男に肌を触らせる事もないと考えていた。 ある種、心に巨大な壁を作り上げて生きてきたライトにとって、これは一つの地獄だった。 「……何で……あの人の事ばっかり考えてるんだろう……? ……敵なのに……強い強い敵なのに……」 恐らく勝てない。 スタージャの全員で一致団結した所で、どこまで保てるのかも分からない怪物。
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