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そんな怪物に対し生まれる、胸を抉られるような痛み。
己の心情を全く理解できぬまま、ライトは年相応の少女の色を見せた顔を枕に沈めていく。
だが、それも数秒の出来事。
ライトは唇を緩く噛み締め、赤くなった眼を裾で擦りあげた。自身の感情の整理は、未だに付いていない。だが――
――……今、するべき事は……私のこの変な気持ちの正体を探る事じゃない。
――本当に探らなきゃいけないのは、あの男……ドラグ・フォーリスの素性。
そもそも前提が可笑しすぎる。
何故、あの怪物が――いくら国の最高機関の一つとはいえ、こんな学舎ごときに籍を置いているのか。
この国の上が正常な思考回路を持っているのなら、ドラグ・フォーリスを使いスタージャを陥落させるだろう。
それをしない理由。それが出来ない理由。実力を隠しているとでも言うのか。
――……そんなの馬鹿。
――大体、実力を隠そうとしてる人間が……宇宙人やら神やらを人前で撃退する訳がないよ。
――…………でも、どんな風にやったんだろう……格好良かったのかな……って、違う!!
その情景を頭に思い浮かべ、同時に気持ちすらも浮かれている事に気付くライト。
少女は慌てて頭を振り、このままではいけないとベッドから即座に立ち上がる。
向かう先は、寮の外。
このままスタージャへと転移するのが早いのだろうが、正直今の顔を部下には見せたくない。
故に、気持ちを落ち着かせる為にもライトは少しばかり歩こうと、躊躇なくスーの部屋から足を踏み出したのだが――――
ライトは知らなかった。
ランドの男子寮には、女子生徒の侵入が固く禁じられている事を。
いや、それはまだ良いのだ。ライト程の美貌と実力があれば、例え教師に見つかろうとも、後からどうにでもなる話である。
だが、ライトは知らなかった。そして、スーも知らなかった。いや、寧ろ――これを知っていたのならば、彼女達は不用意にこの部屋になど集まらなかっただろう。
スーの部屋の真向かいにある部屋が、あのドラグ・フォーリスの部屋だと知っていれば。
更に、これはライトにとって、不幸に見せかけた幸運でしか無かったのだが――
丁度同じタイミングで、二つの扉が開かれた。向かい合う両者。冷たく細められた目と、驚愕で見開かれた目。
能面と赤面。
「……」
「……………………!!」
無言と絶句。
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