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「 」
思考に生じた空白。
それを打ち消す事は、戦闘であればどれだけ容易だったか。
「 え 」
「……」
「え、えっち……」
辛うじてそれだけ言えた。寧ろ、現状を第三者的な視点から見れば、ライトの言葉は果てしなく的を得ているのだろう。
何しろ、神もが羨むと評判の(僅か一日でランドの共通認識となっている)美少女が、男子に部屋に連れ込まれたのである。
しかし、ライト自身は頬を桃色に染めてはいるが、自分が何を言ったのかも理解出来ていないらしい。
だが、言われた本人は、変わらぬ態度で簡素な椅子に座り込む。
「……少し冷静になれ」
「……!! ……!!」
「食われる訳でもないだろう。取り敢えず、お前にも聞きたい事もあるから……」
「く、くくくくくくく、食われる?! そ、そ、そそそそ!」
やけに耳年増なライトだった。
しかし、タコのように顔を真っ赤にした少女に、ドラグは心中で僅かに動揺する。
あまりの狼狽っぷりに驚愕した訳ではない。だが、ぐるぐると目を回すライトが、奇声や笑いにも似た叫びを上げた事で、さしものドラグも口を閉ざす。
――…………ふむ。
――一体、この女は何が言いたいんだ……?
間違っても、自分は可笑しな言語を用いたつもりはない。宇宙人が来襲した時も、言語的な呪いは受けなかった筈である。
が、冷静でいられるドラグは――まだ良かったのかもしれない。
何故なら、相対する全身から汗を垂れ流すライトは――
――ちょっと、ちょっと待って。
――私待って?
――本当に何言ってるの? そういえば私何て言ったっけ?
――それより、何でこの人、こんなに冷たい顔してるの?! 私は可愛いって言われてるの!
――あれ? 何考えてるんだろ、分かんない、うわぁぁあわあわあわそういえばこの人に部屋に連れ込まれてあうあう……
錯乱状態に陥るまで、自分を追い詰めてしまっていたのだから。
自分の心境への不信。恋の辛さ。トドメとばかりに、その想い人に部屋に連れ込まれた少女の脳は――
――……あれ?
――何か、床が近い?
脳の混乱を抑えるべく、強制的にその意識を切り離した。
◇◇◇
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