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少女の唇から紡がれた言葉は、風貌とは真逆の辛辣なものだった。しかも、クスリと微笑む様が妙に男心をくすぐるのだから手に負えない。
愚かな男ならば、このまま本当に飛び降りてしまうだろう。常人なら冗談だと軽く受け流すはずだ。だが、相対する端正ながらも気だるい雰囲気を醸す少年。
彼は知っていた。
この女の吐いた言葉に、一切の冗談は見られないと。もしも自分でなければ――この場にいるのが自分でなければ。
そう思うと、背筋に嫌な汗が伝う。軽く肩を落とし、少年――スー・ゼラムは深々と溜息を吐き、
「……あのな? ライト……普通の人はあんな所から落ちたら死んじゃうの。分かる?」
「……でも虫とかは死なないんじゃないかな? という事は、虫みたいな人間なら死なないのかもね……ね?」
「ね? じゃねえんだよ!! 何だその期待に満ちた眼差しは!! 俺か? 俺の事なのか?!」
「うるさいなぁ……本当に。少しは黙っててくれない? もうランドの前なんだから静かにしてよ」
説教を始めたのだが、何時の間にか自分が悪いという空気に包まれている。げんなりとするスーを置き去りにし、門へと手をかけるライト。
彼女の瞳に映るのは、巨大な建築物への羨望だけではない。あるのは未知への期待。あるいはグラバラスに対しての――高揚。
生まれながらにして、怪物と恐れられた彼女達だけが持つ期待。
果たしてこの国には、どれ程の怪物が潜んでいるのだろうか。どこまで楽しめてくれるのだろうか?
そんな想いを胸に、ライトは緊張気味に門へと手をかける。そして、門を開ける前に――彼女はスーに『殺戮天使』の顔を見せた。
「ねぇ、スー」
「あんだよ、さっさと開けろ……てか無用心だよなこの学校? 学校だかなんだか知らないけどよ……」
「もしもつまらない虫ばっかりだったら、全員殺そうね?」
「…………あぁ、そうだな」
心臓が締め付けられる。スーは、目の前の無邪気な笑顔を見て思う。ライトがあんまりにも――可哀想で。
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