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届かない。
スーが完全に完璧に少女に放った一撃は、完全に完璧にナニカに阻まれることになる。だが、それを阻んだのは――誰かの手でもなく、ましてや少女の腕ですらなかった。
結界。
一体何時の間に設置されたのだろうか? そもそもこの刹那に等しい時間の間に――こんなにも硬い結界を張る事など可能なのか?
しかし、スーはそんな疑問に囚われない。
いや、脳内に疑問を生みながらも――彼の全身は動く事を止めようとしなかった。
ダン、と。地面に垂直に、まるで大木が根を下ろしたかのような震脚。ただそれだけの所作で――少女の周囲をくまなく囲っていた結界は、瞬時に弾け飛ぶ。
――ウッソ!!
今度は、少女の方が驚愕に目を見開く番だった。だが、その思考すらも――スーの立つ領域からすれば決定的な隙でしかない。
続けざまに飛ぶのは、張り手のような二連撃。
勢いよく突き出されたソレは、風圧と共に少女の身体に吸い込まれていく。だが――その洗練された所作は、またもや届かない。
一度目の衝撃。
それが触れたのは、少女の造り上げた結界だった。先程の技術を考えればそれを造り上げられる事に、驚きは感じないだろう。
尤も、スーにとって誤算だったのは――その結界が単なる強度を誇るものではなく、触れた質量を反射させる性質を持っていたことなのだが。
「っと」
全身を使った一撃が、左腕だけに返る衝撃。それでも――僅かに体幹を崩すだけに止めるスー。無論、腕には何の異常も見られない。
故の二連撃。僅かに崩した体勢から繰り出されているにも関わらず、スーの右手が放った掌底が触れたものは――触れれば爆発する、そんな特性を持った結界だった。
そして、殺気に彩られた空気と世界は膨張し――
ランドの門を空高く――吹き飛ばす事になる。
その何の罪も無い門はまるで、運命を決める賽の如く高らかに。
数分後――
「ヤッバイねぇ……本当にまずったよ。うん……いやぁ、殺されるかと思った……ふぃー」
ランドの職員達が蜂の巣を突いた騒ぎになっているのを尻目に、少女は安堵の息を吐く。彼女が今いる場所は、ランドの生徒寮。即ち、女子生徒が使う寮の一部屋であった。
「てか、アレで傷一つ負わないとか化物だよね、いや本当に」
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