第三章 救われきれないもの(2)

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帰り道。健治の足取りは重かった。 あの後、亜紀はさっさと帰ってしまった。ホテルにキャンセルの連絡を入れ、一人でとぼとぼと駅まで行き、そこから電車に乗った。 傍から見たら心ここにあらず、といった風に見えたであろう。実際、途中どうやって電車を乗り換え歩いてきたのかも覚えていない。 気付けば、自宅の最寄り駅からの帰路を歩いていた。 ―何故、自分は振られたのか。 帰り道の間、ずっとそれを考えていた。彼女の言動から、今日のデートが原因であることは明らかだった。だが、その理由が皆目検討がつかなかった。 何がまずかったのか、どう考えても思い浮かばなかった。彼女にアピールこそすれ、何か気に障るような事をした覚えもないのに。 ―やはり、自分は女性に縁がない人間なのだ。 自虐的にそんな事を思う。 「男の魅力は、顔か、お金かなんだよ。」誰が言ったのかも分からないような、そんな言葉。 顔になんて自信はない。だけど、お金だったらそれなりに自信はあった。なのに受け入れられなかった。 ―何故。 やはり自分には何か人間的な欠陥があり、女性はそれを感じ取って自分から離れていくのではないか。そんな思いにも囚われそうになる。 自分は何か女性にしかわからない負のオーラのようなものを出していて、暫く自分の傍にいると耐えられなくなるのだ。 そんなバカなと思うが、そうでも思わないと説明がつかない。 考えながら歩いていると、いつの間にか自分の家の前までたどり着いていた。ほんの数時間前にウキウキした気分でここから出かけたのが嘘のようだった。 ひょっとしたら、今日は外泊かもな。そんな事を考えながらこの家を後にしたのだ。あの時には、見慣れた風景がキラキラと輝いて見えた。なんだか楽しいことが始まりそうな気がした。 なのに、今は全くの真逆だった。見慣れた風景はどす黒く沈んでいた。単に夜だからと頭では分かっていても、健治にはそれが、世の中が丸ごと暗黒の世界に落ちたように思えた。 なまじ幸せを夢見た分、落差は大きかった。高い高い舞台の上まで持ち上げられて、そのまま突き落とされたような気分。
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