第2章

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追いかけてくる 来るに決まってる。 足取りを心なし遅く遅く運び エレベーターの前で一息ついた。 ボタンを押した時に何処かで扉が開く音。 方向的に、今、あたしが出てきた方だった、と思う。 思うだけ。 違う、ちゃんと近付いてくる足音に確信する。 振り向かない 振り向かない 開いたドアに 吸い込まれるように一歩を踏み入れた瞬間 とん、と背中を押されそのまま正面の壁に突き当たりそうになりそれを手で支えた。 ……メチャクチャニサレタイ ただそれだけの願望。 動きを全て封じられるように合わせられた右手と身体と左手と 熱くて 心地好くて 奥が、緩む。 「どこに行ってもいいけどさ……」 こんな時になんて穏やかな音を出すんだろう。 「ちゃんと最後まで終わらせてから行って?」 確定のセリフを聞いて、あたしの全身が 喜ぶ 歓ぶ 悦ぶ 狭い、区切られた空間の中で なんとも言えない緊張と高揚がのし掛かり 危うく目眩を起こしそうになった。 待ち望んだ瞬間に期待を、望みを馳せて あたしは彼に連れられるまま身を任せた。
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