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「なんだ、こんな簡単な事も出来ないのか?それでも名門の出なのか?」
「お前が名門の出だって?ははっ、ベリサリウスの名も廃れたなぁ」
「俺の視界からすぐに消えろ。人殺しのゴミが」
同世代の貴族の子息、令嬢からの罵倒。冷たい視線。
「…すまない…すまないなぁ、お前たち。私が死んではこのベリサリウス家はもう…」
「あなた…心配しないで下さい。この家は私が支えます。レイナスは必ず立派に育て上げてみせますから…!」
病床に伏す父親と、手を握って涙ながらに誓う母親。
「先代が亡くなって…誰がこの家を支えるんだ?数年、国に大した利益ももたらせず功績もない…今のままではこの家は没落していく一方だぞ?」
「奥様が家督を執るようだが、あの方もお身体が頑丈ではないし…ベリサリウスももう終わりなのかもなぁ…」
物陰で聞いているとも知らず、勝手な事を話す使用人。
「お前のお父様には以前、大変お世話になった。その時の恩を返す時だろう、助けが必要なら言ってこい」
「気にするなよ、レイン。俺は何があってもお前の味方だから」
心を許せる教官と親友。
そして最後に現れたのは一人の少女。
彼女は恐れに、怖れに、畏れに表情を歪ませながら、甲高い声で叫んだ。
「助けてぇ!助けてよ、レイナスぅ!!…嫌ぁぁぁぁあっ!!」
あぁ、これは夢だろう。
わかっていても、手を延ばさずにはいられない。
だがその手が握り返される事はなく少女は消え、虚しく虚空を掴むだけだった。
自分を中心に取り囲んだ人々が様々な言葉を投げつけてくるのを、僕は小さく膝を抱えて聞いている。
僕は、また別の僕の視点から闇の広がる空間の中で、言葉を投げつけられている僕を眺めていた。
丸くなった僕が顔を上げ、その暗い目で僕を見つめてくる。
「どうして僕は弱いのかな」
…何度も何度も溢した言葉。
無力な自分を呪う、怨嗟の籠った言葉。
聞きたくなくて僕は耳を塞ぐ。
意味は無かった。
どうして僕は無力なのだろうどうして僕は無力なのだろうどうして僕は無力なのだろうどうして僕は無力なのだろうどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力ーーーーーーー
反響する呪詛の中、意識は覚醒へ向かった。
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