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「…段々本降りになってきたわね…」
いくつもの高層ビルが立ち並ぶ、大都会の夜。
雨足が強くなりつつある中に無数のネオンが輝く闇。
見上げるのに首が痛くなるほどの高さを誇る、摩天楼たる鉄塔の上で彼女は呟く。
本来なら立ち入ることは出来ないその場所、言わば展望デッキの屋根の部分である柵もない開けた空間に、強風と冷たい雨にその身を晒しながら、足場ギリギリの所に俯せで寝転んでいた。
(まぁ、私には関係も問題も無いのだけれど)
そう思いながら、自己改造を施した長い銃身を持つ狙撃銃…俗に言うスナイパーライフルを手にし、悪化しつつある天候を気にも留めず装着したスコープを覗き込むこと早、二時間程。
本日の依頼で指名された標的は未だそのスコープ内に姿を現さず、指定時間を大幅に過ぎていたのだが…彼女はその瞬間を待ち続けていた。
「優秀なスナイパーである必須条件は、技術でもなく撃つ冷酷さでもなく、ただその瞬間を待つことだ」と、師である老人に言われたのは何時のことだったろうか?
スコープに映る景色に集中力を切らさず、その教えを忠実に守る彼女の目に、スコープ越しに標的の乗る黒い車が映った。
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