没落の名門《異界》運命の戦友

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『いやなに、そう身構えることもない。ただ、私を呼ぶに価する理由をお聞かせ願いたいだけだ。仮に私が満足出来る内容でなければ、貴様をこの爪を以て引き裂くがな…』 講堂内の空気が軋む。 漂うのは大鷲から香る死の気配。 剣獣契約は主となる側にも従者となる側にも一定の利点が存在するため、大抵の場合はスムーズに契約が成立する場合がほとんどである。 しかし、稀にこのような誇り高い高位の存在を呼んだ時、戦闘であったり問い掛けを行い、主となる者の実力や器を見る者が現れる。 それはかの精霊も同様であり、それに近い存在であるガーゴイルもなのだろう。 ともかく「気に入らなかったら殺します宣言」を受けたケイトは、さすがに冷や汗を流す。 目前を飛ぶ大鷲が死や悪魔の象徴にしか見えなくなり、人知れず身体が震え始めた。 「ヴォルスター。ダメだ、この契約は危険だリスクが高すぎる。ガーゴイルを呼び出せる程のお前の実力には驚嘆するが、満足出来なければ殺されるだと?担任教官として、認めるわけにはいかない」 「…教官」 生徒の危機に、外野から口を出すミラ。 ケイトはそれに振り向くが、表情には迷いが見える。 「今回の召還だけは取り消しだ、また 『黙れよ人間』っ…」 気に障ったのか、怒りを孕んだ低い声が頭の中と言わず講堂内に響く。 ケイトとミラ、レイナスを含む生徒全員は、大鷲を見上げた。 『此度の召還、貴様には関係の無いことだ。この人間と私以外は蚊帳の外だ。契約を結ぶも辞めるもこの人間次第…他者の意思に介入することは許さぬ』 「くっ…」 生徒の命がかかっているミラにしては傲慢とも思える大鷲の言葉。 しかしこれ以上ケイトに声をかけ、大鷲の気を損ねて他の生徒達に被害が及ぶ恐れを考えれば、口を閉ざす他はなかった。 (ケイト…) 親友を心配し、無言で見つめるレイナス。 その時、ケイトはレイナスのほうを見やって目があった。 数秒間互いを見つめる親友同士、そしてケイトは冷や汗をかきながらもレイナスに笑いかけた。 (俺は大丈夫だ!) そう伝えるような笑顔で。 そして、ケイトは意を決して目前の岩石の大鷲わ睨み付けた。 「おい、ガーゴイル。俺がお前を呼び出した理由を教えてやんよ」 『ほう…では答えを聞こうか』 ガーゴイルのジンが興味深気に見つめる人間の目には、強い意思と覚悟が宿っていた。
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