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「来たか。気分はどうだ、ベリサリウス?」
「…正直なところ全く自信がありません。ですが、ケイトにあれだけのものを見せ付けられましたし、自分もまずは全力で臨みたいと思います」
端的に精神状態を確認してくるミラに、レイナスはそう返す。
ミラは一瞬心配そうに顔をしかめるが、すぐに教官としての表情を貼り付けて魔方陣へレイナスを送り出す。
「わかった…後悔だけはするなよ…レイン」
「はい、ありがとうございます…ミラ先生」
小さく口にされた自分の愛称。
限られた人のみが呼ぶレイナスの愛称は、それだけでレイナスにとって 大きな存在であるということ。
心から大切にしている言葉を伝えてくれた昔からの恩師に、レイナスは自信無さげに微笑むと、魔方陣の中心に足を踏み入れた。
レイナスは魔方陣の中心で改めて召還魔法の魔方陣を眺める。
魔方陣は直径で約5メートルはあろうかという円形の中に外側から二重円、正七角形、三重円、正五角形。
一番内側…つまり現在レイナスが立っている地点には五芒星が描かれており、また各図形の隙間を複雑な幾何学文字が所狭しと埋めている。
(本当に巨大な魔方陣だよな…気にするところはそこじゃないか)
余計な考えは頭を横に振って思考の外へ追い出し、レイナスは左手に指揮棒サイズの杖を握ると、深呼吸を一つして集中。
未だ使い道のない、質だけは良質な魔力を高め始める。
祭壇下の生徒達の自分への侮蔑の言葉は耳に入らず、レイナスは理想的な集中を保っていた。
(もっと…もっと…もっとだ)
魔力を高めて行くに連れ、レイナスを中心に濃密な魔力が奔流となって溢れ出し、それに呼応するように魔方陣も虹色に輝き出した。
それを見ていた生徒達は普段馬鹿にしているレイナスの魔力量に驚き、目を見開いてそれを見つめており、ケイトもまたレイナスの様子を静かに見守っているが、唯一側に立つミラのみが違和感を覚えていた。
(レインの魔力は相当なものなのは間違いはないが…魔方陣が虹色に輝くだと?これまでにこのような事例があったか?)
目を閉じて集中しているレイナスはそれに気づかず、自身の魔力が高まっているのを感じながら更なる高みを目指していく。
そしてより高められ、濃密から凝縮された魔力は眩い光を放ちながら魔方陣周囲の空間に迸り、奔流となっていた魔力も最早輝く滝に変化していた。
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