没落の名門《異界》運命の戦友

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(まぁ、自分はともかく…) 今気掛かりなのはあの女性だ。 瀕死の状態で医務室に運び込まれてから既に三日目だが、未だ目を覚ます気配がない。 本来であればこの学院の医法師は、腕が飛んだ足が千切れた程度のものは数時間で、胴体が半分ほど切断されたような重体でも一日あれば完治させる事が出来るほどの神業の持ち主であるのだが、その医法師が治療をしているにも関わらず目を覚まさないという。 あの致命傷となっていた傷そのものは既に治癒しており、少なくなっていた血液も造血作用のある魔法薬を投与していたため、おそらく身体そのものは健康体であるとのこと。 (何か理由があるのだろうか) 色々と考えて見るも、医法師の知識量は自分の知識など到底及ばないため、考えても無駄との結論に至って黙って足を進める。 その道中、全身に生徒達の視線を感じるが、その視線に込められた感情は以前とは異なっていた。 これまでは落ちこぼれの自分に対する侮辱や蔑みを含んだ視線だったが、今のは強いていうなら、奇異の視線。 何故なら、レイナスはこの度の召還で学院はおろか世界初の人間の召還を行ってしまった人物として有名になってしまったからである。 今のところ女性が目を覚ましていないため、剣獣契約を結ぶ事は出来ていないが、無事に契約が成立すればそれも世界初。 しかも、女性の詳細が全く分からないのも奇異の視線に拍車をかけている。 ただの人間なのか、か弱い女性なのか。 自分達と同じように魔法を使えるのか、それとも異世界において英雄と呼ばれるような偉大な人物なのか。 場合によってはレイナスの立場もこれまでとは大きく変わるため、状況が動くまでは傍観に撤しようとする意思も含まれた視線に変わったわけである。 レイナス自身もこれは敏感に感じ取っており、正直バカにされるよりはマシだとは重々思っているが、今はそれを気に止めずにまっすぐに医務室を目指すことにした。 数分後、レイナスは校舎西棟の最奥に位置する医務室に到着すると、扉をノックして室内から少々遠い感じの返答があったのを確かめると、「失礼します」と部屋に入る。 まず目に入るのは石造りの部屋。 石の壁と石畳の床に、アーチ状の高い天井、そし構造を支える石の柱。 この学院は古くなった前時代の王城をそのまま校舎として流用しているため、基本的に校舎の各部屋と廊下はほぼこのような作りとなっている。
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