3023人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、医法師のしての高い実力はもちろんのこと、患者を救うという医法師の基本的な精神に加え、命を平等に見るという彼の姿は生徒達の尊敬を集めており、院内でも極めて信頼のおける人物である。
無論、学院の授業において戦闘学等で怪我を厭わず訓練に集中出来るのは彼の存在と恩恵に頼るところが大きい。
そしてレイナスを死んだ魚の目で見つめて瞬きを数回すると、ゆっくりと口を開いた。
「やっぱりベリサリウス君か。今日の授業はもう終わったみたいだね。彼女の様子を見に着たんだろう?」
頷くレイナスを見て、バーテル医師は咥えていた紫筒を灰皿に突っ込む。
そして、回転式の座り心地の悪そうな椅子からフラフラ立ち上がると眠そうな見た目のわりにはしっかりした足取りで部屋を出ていく。
一見ダメ男な医神の後をついていくレイナス。
向かった先は当然、カーテンで仕切られていた今唯一使用されているベッドだ。
クリストファーは音を立てないよう静かにカーテンを開けると、そばにあった簡素なイスをレイナスに寄せてくる。
「それじゃお静かにね。僕は部屋でカルテの整理をしているから、もし彼女が目を覚ましたら一声かけてね」
「あ、はい。わかりました。バーテル先生、いつもありがとうございます」
「いいんだ、人を治すのは僕の役目なんだからね。でも、もし声かけにきて僕が寝ていたら起こしてくれると助かるかな、なんてね」
それじゃあよろしく。と、手を振って自室へ戻っていくクリストファー。
扉が閉まった瞬間、盛大に何かが崩れる音と何が倒れる音が病室内にも聞こえ、そのまま何も音が聞こえなくなった。
まぁ予想通りの光景が広がっているだろう。
ここのところ、彼女をほぼ寝ずに診てくれているとレイナスは聞いている。
クリストファー自身は自分の役目だからと軽く言うが、レイナスとしては本当に頭が上がらない思いである。
今頃は夢の中であろうクリストファーに心の中で感謝すると、用意してくれたイスに腰掛け、レイナスは規則正しく寝息を立てる彼女の顔を見つめた。
「それにしても…」
最初のコメントを投稿しよう!