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「あはは」
ケイトらしいなと、小さく笑うレイナス。
その時、視界の端で小さく動く物に気付き、何やら微かな違和感を感じたレイナスは女性を見る。
「ん?」
すると、今まで目覚めなかった女性が薄く目を開け、まだ意識が混濁しているような様子でレイナスを見つめていた。
「「……」」
暫く見つめ合う二人。
そして気が付いたレイナスはバーテル医師を呼ぶという結論を導き出し、椅子から立ち上がろうと両足に力を込める…が。
「あれ?」
いつの間にかベッドに女性の姿は無く、自分は何故か身体を動かせなくなっている。
見ると、女性が身体にかけていたと思われる毛布はベッドの足元に落ちており、自分の両肩には後ろから白く細い腕が首に回され、何かが背中に触れている柔らかい感触とともに立ち上がることが出来ないよう、体重を掛けられていた。
そして、首筋に感じる冷たい感触に目を向けると、そこにはベッドのサイドテーブルに置かれていた万年筆が、鋭いペン先をレイナスの首に向けて突き付けられていた。
「っ!?」
驚愕し、抵抗を試みるレイナスは全力で暴れようとするが…。
「動かないで」
空間が軋み、空気が重くなる程の冷たい声に抵抗の意思をすっかり殺がれてしまった。
明確な殺意が込められた、美しくも冷たい声。
その声はただの万年筆が、研ぎ澄まされた鋭い刃物を首に突き付けられているような錯覚をレイナスに与え、身体は鉛の塊の如く重くなっていく。
身体が恐怖で震えもせず、呼吸すら出来なくなる。
石になったかのように動けなくなったレイナスの視界に、ゆっくりと入り込んでくる影。
それは、開かれた目の奥、暗い緑色の瞳でレイナスを見つめる、今までベッドで眠っていた美しい女性の顔だった。
「あっ…」
「此処は何処?あなたは誰?私はどうなったの?色々聞きたい事があるのだけど…」
その瞳に一瞬とある人物の顔が脳裏を横切ったが、今はそんな状況ではない。
完全に予想外だった。
美しい女性の容姿にどのような人物なのかあれこれ考えてはいたが、このような事態は考えてもみなかった。
死の香りを漂わせ、殺意を纏う女性は悪魔的な美しさとなり、死の天使という言葉が脳裏を過ったレイナス。
「答えてくれるかしら?死にたくなければね」
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