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「え…?」
「ん?何かしら?」
その女性の反応に驚きを隠せないレイナス。
(ベリサリウス家の名を…知らない?)
家名を知れば少しは扱いを変えてくれるかもしれないと思い、そう答えたが無駄に終わった様子。
しかし、ベリサリウス家は何百年も続いてきた名門であり、その名は古くから受け継がれてきたものである。
如何に召還された使い魔といえど、基本的に知能が高い使い魔は人間の情勢や王族、貴族等の名を把握している事が多く、中でも名門とされているベリサリウス家を知らない使い魔はいないだろう。
にも関わらず、この女性は完全な人間の形をした使い魔でありながら、ベリサリウス家を全く知らない様子である。
ここまでの会話(?)を経ても女性の知能が低いということはなさそうなのだが…。
「い、いえ、なんでも…」
もし聞けるのなら後で様子を見て聞いてみよう。レイナスはそう考えると、何事もなかったかのように振る舞う。
「…どうやら私にも聞きたい事があるみたいね。いいわよ、知りたいことが知れたら答えられる範囲で答えてあげるから。あなた、今まで嘘は言っていないみたいだしね」
どうやら女性にはお見通しのようだ。
その洞察力と直感の良さに、レイナスは身震いをする。
「そうそう、カフカよ」
「…あ。は、えっ?」
「だから、カフカよ。私の名前。とりあえず名前だけは先に教えてあげる」
カフカ。
この国では聞き慣れない単語を話し、聞き慣れない名前を持つ女性はそう名乗ると、今まで発していた殺気を完全に消し、目を細めて微笑む。
その笑顔はレイナスの目を釘付けにし、カフカの姿は夕日に照らされて幻想的な美しさを有していた。
殺気は無くなったというのに、レイナスは何故かまだ身体の自由を取り戻せなかった。
「うふふふ…顔が赤くなってるわよ」
「っ!?」
「殺されかけたっていうのに、結構肝が座ってるのね、あなた。まぁ、もう余計な事をしなければ殺す気もないけれど」
火照った顔を隠すように俯くレイナス。
そして殺気は収まっているものの、まだ死の危険は去っていないらしい。
「さて、質問を続けさせてもらうわね。さっきも言ったけど…私、とある理由で重傷を負っていたの。でも、今の感じ私の身体に異常はない。幻とか夢とも思えないし…これはいったいどういうこと?」
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