土砂降りの夜《現世》血濡れの女神

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雨で濡れた地面に、赤い水滴が落ちる。 「…一体、どういうつもりよ」 弾丸はそのままカフカの額を穿つと思われたが、間一髪で我に返ったカフカは身体を大きく横にずらし、弾丸は右頬を掠めて僅かに流血させるに留まっていた。 そして自らに改めて向けられた銃口を警戒しながら、醜悪な笑顔で話す男にカフカは叫ぶ。 「一体、どういうつもりよ!!『ロキ』ッ!?」 「どういうつもりと言われてもですねぇ…僕も与えられた役目を果たそうとしているだけですよ、カフカさん?」 くくっと喉を鳴らして笑う、ロキと呼ばれた男。 カフカは戸惑いながらも隠し持っていたナイフを構えると、次いつ撃たれてもいいよう、男の動作や素振りを見定めながら気付かれないように少しずつ後退していく。 「与えられた役目?」 「ええ、そうですよカフカさん。貴女に今日全日本に根を張る暴力団の大元の狙撃依頼があったように、僕も役目を持って貴女の元へ来た訳です」 浮かべた笑顔に底知れぬ嫌悪感と恐怖を覚え、最早この男と一言も言葉を交わしたいとは思えないカフカだが、時間稼ぎと男の反逆を組織に告するために次の言葉を待つ。 路地裏の曲がり角まではあと少しだ。 「僕の役目は、本日依頼を終えた貴女に報酬を渡して油断させ、不意を突いて始末することです。…まぁ、貴女を殺せる事につい嬉しくなって呼び止めてしまったわけですが、まさかこの距離とあのタイミングで躱されるとは思ってもいませんでしたよ。さすがアルテミスといったところでしょうか、称賛ですねぇ」 「…何ですって…?っあっ!?」
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