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男の言葉に呆然とし後退することも、銃口に警戒することも、男の動作と素振りに注視することも一瞬忘れたカフカは、男が放った弾丸を避けきれなかった。
弾丸はカフカの左肩の肉を抉り取りながらを貫通すると、向こうの闇に消えた。
「あぐっ!…うぁ」
左肩を貫かれた衝撃で倒れ込むカフカに笑いながら近寄る男に、カフカはそれでも右腕でナイフを男に向けながら威嚇する。
「っう…これ以上、近寄らないで!私を殺すなんて…組織が許すわけないじゃない!!」
「あぁ、痛々しい姿…しかしそれもまた美しいですねぇ。あと、貴女に始末の決定が出ているのは本当ですよぉ?確かに貴女はこれまで組織の狗として数多くの裏の著名人達を荼毘に臥してきた…しかし、貴女の師が無念の死を遂げた今、貴女の首輪を絶対的に握っておける人材がいないことが、組織の最大の懸念となっているんですよねぇ…いやいや、本当に惜しい人を亡くしましたねぇ、はい」
そう言って拳銃を恐怖と痛みに震えるカフカに突き付ける事もなく、飄々とした体で近づいていく男は、銃の代わりにカフカの胸元を指差した。
「先程お渡しした封筒の中身を御覧なさい?そのぐらいの猶予は差し上げますからぁ。あぁ、最後の直筆は私からのとびっきりの情報ですよぉ」
男の言葉を聞き終わる前にカフカは封筒を取り出して引きちぎると、一枚の白い便箋が目に入ってそれを広げて目を通した。
同封されていた札束のカムフラージュであろう、新聞紙の束には目もくれずに。
「…そんな、ウソ…嘘でしょ?」
そこにはカフカを殺す指令と共に、その日時と手筈、また指令を受けた男の名と成功報酬、最後に組織の上層部の印鑑とカフカの師が組織の裏切りによって殺された事がハッキリと書かれていた。
全てはカフカに絶望を与え、その上で死に追いやるための策略であった。
思えば、今までに標的が大きく遅れて来ることもなく、また大雨の降るなかで二時間も待ち続けたことも皆無であり、おそらくそれは雨による冷えで身体を十分に動かせなくするための策であったのだろう。
既に始末の決定している人間に最期の仕事をさせ、そして殺すという組織の闇、敬愛する師をも手に掛けた組織に憎悪の念を滾らせるカフカ。
「先生も…あなたが殺したっていうの!?」
左肩から血を流して立ち上がり、ナイフを突きつけて吠えるカフカに男は再度拳銃を突きつけながら口角を吊り上げた。
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