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小さく一呼吸起置き、少々冷めた怒りに身を委ねるカフカは、
冷静になった頭で現在の自分の身体の状態を改めて把握する。
かすった右頬の傷からの出血は治まりつつあるものの、利き腕である左腕は左肩を抉られた影響で動かず、また出血も収まらずに強い痛みを持っている。
寒さと出血で身体は思うように動かすことは出来ないが、まだやれることはあるはず。
どの道組織に戻ったところで殺されてしまう身分…命の続く限り復讐を繰り返すのもいいが、世間に組織の上層部等の情報を公表し、組織の瓦解を誘発したほうがこの国に取っても有用だろう。
何といっても組織の上層部には国のトップ連中も関わりがあるくらいなのだから。
そして、無駄な殺生を好まなかった師を手に掛けた組織に今さら愛着も何もあったものではない。
「…え?」
そう考えたカフカは、傷ついた身体を引きずりながら歩き出すが…突然感じた腹部の熱に歩みを止めた。
ゆっくりと痛みと暑さを増していくそこに手を当てると真っ赤な血液が流れだしており、腹の底から沸き上がってくる不快感に膝をつくと同時に勢いよく吐血した。
「あがっ…がっがふっ…」
激痛のためにその場から動けなくなるカフカは、背後に寒気を感じて息も絶え絶えに振り向くと、先程倒れた体勢のまま血に濡れた上半身を起こしてこちらに銃口を向ける男の姿が目に入った。
銃口から立ち上る硝煙が空気中に溶けていき、カフカは自分と同じく口から血を吐いて笑う男を見つめていた。
「…言ったでしょう、死んで下さいと」
カフカは向けられた銃口に走る火花と右胸に走る衝撃を感じながら、意識を手離した。
男は引鉄を引いた後、意識を失ったカフカを見て満足そうに微笑むと、出血多量で絶命。
雨は既に止んでいた。
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