第1章

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「え? いや。そんなわけ無いじゃん」 「へー」 「ちょっ、長谷川さん拗ねないで。タイトル教えてよ」 「タイトルは 『貴弘 LOVE v 』 ってハート付き」 「嘘!?」 「う・そ」 「…なっ」 「おやすみ。俺しばらく寝てないからサ。ちょっと寝るわ。悪いけど静かにしてくれる?」 「っ…せめてタイトル言ってから」 「…今みたいな感じだよ」 「え…?」 そう言って本当に寝てしまった長谷川さんは、その後も決してタイトルを教えてはくれなかった。 一週間後。 自宅アトリエに展示会から引き上げられた作品が持ち込まれた日。長谷川さんがクシャクシャと丸めてゴミ箱に捨てた送り状を目の端にとらえた俺は、備考欄に書かれた小さな文字を見逃さなかった。彼に気付かれないように拾って広げてみると、左下がりの癖のある力強い筆跡で書かれた五文字。 『愛しい瞬間』 と名づけられた作品。 彼がそのタイトルの説明に 「今みたいな感じだよ」 と言ってくれたことが、俺はなにより嬉しかった。       おわり
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