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港に渡し舟が停泊し波に揺れる。その舟の前には亀田と、神楽、天音の姿があった。
「本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる亀田の前で神楽は「いえいえ」と微笑んだ。
「だってこんなにお土産頂けるなんて!!」
そして、神楽の両手には沢山の荷物。
「神楽様、それはお供えです。お土産ではありません」
冷たくそう突っ込む天音に亀田は吹き出すように笑った。
タンタンタン……
船の音が波音に混ざる。潮風が天音の黒髪を揺らす。
「しかし、本当に欠片でしたね。もっと大きいのかと思ってたのに残念ですねえ」
船のへりに頭を預け神楽がそう呟くと天音は「ですね」と相づちを打った。
「でも、どんな欠片でも見つけないと。力があるのは確かですので」
至極、真面目にそう返す天音に今度は神楽が「そうだねぇ」と返した。
「全部集めるのにどれくらいかかるんだろうねぇ」
これで何個目の欠片だろうか。それでも天羽々斬はまだ元に戻るには程遠い。
「神のみぞ知る、ってことなんですかね?」
神楽は自分でそう答えを出して、穏やかな水面を見つめ微笑んだ。
「あれ、良かったんですか?」
突然の質問に神楽は「ん?」と首を傾け、それから「あぁ」と思い出したように声を上げた。
「いいんですよ。よほどのマニアか地元の人でもない限りどうでもいいことでしょうから」
そう言ったのは天羽々斬のこと。
一応、天羽々斬は岡山県の石上布都魂神社に祭られその後石上神宮に移された、とある。けれどそれが本物の天羽々斬かどうかなんて――。
「あ、神楽様。忘れてましたが、次のお仕事が来てます」
「はい? 私は今から家に帰っていただいた海の幸をゆっくりと」
「そのままそれを持って目的地へ向かってくださいとのことです」
「そ、そんなぁ。労働基準局に訴えてやるぅ~!!」
瀬戸内の海に神楽の情けない声が響きわたる。
太陽は燦々と輝き、潮風は心地よい。
今日も、海は穏やかです。
【END】
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