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何だか釈然としない。
シンク横へ登り、息を吐く。
自分のコップを出して水を入れ、インスタントコーヒーを少し入れる。指でふちを弾くと、湯気がのぼった。
あぐらをかいて、薄いコーヒーをすする。
初日の威圧感はどこへやら、あの死神はすっかり宙の保護者のようだ。とはいえ、尊大なのには変わりない。
気に入らないのはそこだろうか。
「見慣れん術式を使うのだな」
入り口に本人が立っていた。
「道具も使わずその湯をどう用意した?」
見られていたか。
「オレ様マジシャンなんだよ」
わざわざ誤魔化す気もなく、てきとうに言う。
ヤカンやポットを使うのが面倒なとき。ノブに届かないドアを開けるとき。彼女は少しずるをしている。
それは魔法と呼ばれるものではあるが、いちいち説明する気も無い。
死神は、ふむ、と小首を傾げるように髪を揺らしたかと思うと、すぐそばへ立っていた。
躊躇なく、刃の右手をつまみ上げる。
「ッ冷た」
思わず声を上げた。氷のような指先に触られ、軽く持たれているだけなのに、思うように腕が動かない。
死神は、その様子も観察するように眺め、唐突に離す。
「……そもそも、お前は何だ」
「何だってあんた。わざわざ訊かなくたって解んだろ」
冷えた腕をさすりながら、面倒そうに鼻をならす。
人外、神魔、上位存在、人知を越えたもの。大体においてそれらは、人の事など訊かなくとも識っているのが定石だ。ごまかしが効かず、大体のことは見透かされる。
だが、透徹するような目で刃を視ていた死神は、訝しげに眉を寄せた。
「お前は、この世のものか?」
「は。なにオレ死んでんの? 道理で知らねえ所で目ェ覚ましたワケだ」
「私の管轄下では無いようだ」
軽口を冷静に断たれ、口を曲げる。
管轄下って。役人か。
「黄泉へ来たものなら、私に知れぬものは無い。だがお前は何だ? 妙な呪が纏わりついた、この国でいうところの『生霊』のようだ」
言って、それも少し違うか、と考え込んでいる。
死神が。
なおも刃を見つめ、難解なパズルに挑んでいるような様子だ。
見ていて何だか頬がゆるんだ。
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