2.どちら

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 中島は自分の予想が的中したことを察した。やっぱり、やっぱり初見さんだったんだ!  何故なら初見さんは、中島にいつもの「さよなら」を言わずに帰ってしまったからだ。しかも、貸した文房具を返してこなかった。  いつものがなくて、貸した物が返ってこない。初見さんは友人と共に帰ってしまった。だけれど、教室に誰もいなくなったら、僕しかいなくなったら、戻ってくるのだろう。友人には、忘れ物をしたとでも言って先に帰ってもらっているのかもしれない。いや、かもしれない、じゃない。そうなのだ。初見さんはみんながいなくなるのを待っている。まだ、さよなら、ではないのだ。この恋文の続きがあるから、わざと声を掛けてこなかったんだ。どうしようどうしよう。初見さんが、僕のことを好きだなんて!  中島は普段の数百倍遅い動作で帰り支度を進めていた。一人、また一人と教室から人が減っていく。そしてとうとう数えるほどにまで減った時、具体的には中島一人と女子生徒三人の計四人が残った時、動いた。 「うっわマジかよ。ホントに待ってるんだ」  最初、その声が自分に掛けられているとは思わなかった。 「ねえ、こっち向きなよ。アンタに言ってるんだって」  舌打ちをし、苛立ちを隠そうともしない声音が両耳を突く。そこで中島は振り向く。中島の席は窓側の最後列で、後ろを向くと三人の女子生徒が並んで立っていた。彼女達の誰もが、冷笑を湛えている。 「バーカ。アンタのことを好きになる奴なんて、いるわけないじゃん」  その一言で、中時俊之は全てを察した。察しながらも、首はつい廊下の方を見ている。  どれだけ見ていても、初見玲奈さんは現れなかった。 実に、実に実に気の毒な話である。いや、気の毒で済むような話ですらない。男にとっては女性恐怖症になる立派なトラウマであり、一生消えない傷を負わせられたのである。  そして中島の悲劇はこれだけに留まらなかった。なんとそこからいじめに発展してしまうのである。自惚れ勘違い男と罵られ、偽のラブレターのことをクラス中に話し、彼を笑い者にしたのである。クラス中には、もちろん初見玲奈も入っている。中島は誰に笑われても初見玲奈だけには笑われたくなかった。彼女だけにはどんな顔もしてほしくなかった。
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